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□ジムに行きたい
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三人が次に使用したのはクロストレーナー。
歩くようにして前後に足を動かす器具で、ヴィンセントとクラウドはそれらしく動かして体を鍛える。
対するデンゼルはまだ子供なので大変そうにしながらもそれでも楽しそうに動かしていた。
いや、動かしているというよりは玩具を使う感覚でいる様子だが。

「そういえばアンタが髪を結んでいるのを見るのは初めてだな」
「結ぶ事がそもそもなかったからな」
「今の感想は?」
「大差ない」
「ユフィに言ったら怒られるだろうな」
「怒られる筋合いもないがな」
「ヴィンセントって昔から髪が長かったのか?」

クラウドの隣でデンゼルが無邪気に質問をしてくる。
デンゼルはヴィンセントの詳しい経歴は知らないが主にユフィを中心に実は長く行きている事や諸々の事をそれなりに知っている。
しかし賢い彼は必要以上の詮索はせず、ただ聞いたまま見たままのヴィンセントを受けれていた。
デンゼルからの質問にヴィンセントは緩く首を横に振りながら答える。

「いいや、昔はお前やクラウドのように短かった」
「ふ〜ん。じゃあ切らないのか?」
「それは俺も思った」

二人からの質問に、しかしヴィンセントも少し考え込む。
言われてみれば棺桶で眠りに就いて今に至るまで髪を切るとうい考えはなかった。
いや、忘れているだけで恐らくはあったかもしれない。
けれど今の自分の姿は罪を犯して与えられた罰を受け入れた姿、だからありのままの罰を受け入れる為に切ろうとしなかったのかもしれない。
だが、罪と罰から解放された今はどうなのか。
罪は赦され、罰は罰ではなく慈悲であった事が分かった今はどう受け入れればいいのか。
また髪を切って物理的にも頭を軽くするのもいいのではないだろうか。
昔と同じような長さまで切って・・・昔と同じような髪型になって・・・。

そこまで考えてヴィンセントは小さく吹き出した。

「・・・クッ、クク」
「どうした?」
「いや・・・髪を切った自分がお前らと共にいる姿を思い浮かべたら違和感が酷くてな」
「違和感?」
「そうだ、まるでタイムスリップをした自分がいるような光景だ。だから今のままでいい」

クラウドもデンゼルもいまいち納得のいっていないような表情を浮かべていたが構うものか。
それにしても本当に違和感があると思う、昔と同じような髪型の自分が仲間たちの輪の中にいたら。
そう考えるとすっかり馴染んでいる今の姿も悪くない。

ヴィンセントは少しだけ今の自分の姿が好きになった。




クロストレーナーを終えた次はペクトラルフライを使う事に。
難なく使いこなす二人を見よう見まねでデンゼルも使おうとする。
早く使いこなせるようになってマリンに褒められるといいな、などと心の片隅で小さく応援してやりながら今度は自分からクラウドに話を振ってみる。

「時にクラウド」
「何だ」
「最近白玉あんみつにハマっているというのは本当か」
「・・・何で知ってるんだ」
「ユフィが言っていた」
「あのおしゃべりめ・・・」
「クラウドは白玉が沢山入ってると喜ぶんだぜ」
「ほう」
「・・・・・・あんこと一緒に食べるのが美味いんだ」
「意外だな」
「甘すぎないのがいい。それとユフィがティファに作り方を教えてくれたお蔭でティファお手製の白玉あんみつを食べられてる」
「店のメニューに加えるのか?」
「クラウド専用だから出したくないんだってさ」

デンゼルが悪戯っ子のようにクスクスと笑いながら言うとクラウドは少し顔を赤くしながら「うるさい」と小さく呟いた。

「ハマっていると言えば最近ユフィがコーヒーゼリーにハマってるみたいだな」
「そうなのか?」
「ああ、最近はよくコーヒーゼリーを頼むみたいで食べているのをよく見かける」
「・・・言われてみれば食べている所を私も見かけるな」
「牛乳や生クリームを入れないと食べれない癖にな」
「しかし何故コーヒーゼリーなのだろうな」
「さぁな」

牛乳や生クリームを入れないと食べれないほど苦い物が苦手なのにそれでも拘ってコーヒーゼリーを食べるユフィが分からない。
簡単にテレビや雑誌で影響されるような娘でもないのに何がキッカケでそうなったのか。

少し気になるヴィンセントだった。




ペクトラルフライの次はレッグプレス。
三人並んで器具の椅子に座り、プレートを足でゆっくり押し上げたり戻したりする。
ヴィンセントとクラウドは一定のリズムで押し上げたりしているがデンゼルは苦戦している様子。
まだ幼いのだから仕方ないだろうと思いつつ集中しているとクラウドがまた話しかけてきた。

「ヴィンセント」
「何だ」
「夏は休暇は取れそうか?」
「何かあるのか」
「今度みんなで海に行こうかと計画してるんだ」
「発案者は」
「ユフィだ」
「やはりな」

そうだろうと思って薄く笑う。
そんな賑やかな計画を率先して考えるのはユフィしかいない。

「何事もなく平和であれば私もユフィも恐らく取れる筈だ。リーブは難しいだろうがな」
「自分は行けないから代わりにケット・シーを連れて行ってほしいそうだ」
「やはりそう来たか」
「バレットもシドもナナキも来るから久々の全員集合だな」
「フッ、騒がしくなりそうだ」
「バーベキューと肝試しするんだって!楽しみだよな!」
「ああ、そうだな」
「・・・そういえば」
「ん?何だヴィンセント」
「海と言えばユフィがティファと水着を新しく買うと言っていたな」
「ふぅん」
「私の聞き間違いでなければクラウドが鼻血を出すような水着をティファに選ぶと言っていたよな気がしたが」
「おぐっ!?」

突然の不意打ちにクラウドは滑って危うく椅子から転げ落ちそうになる。
すかさずデンゼルが心配した。

「大丈夫かクラウド!?」
「いや・・・問題ない」
「あまりティファで遊ばないように釘は刺しておいたが」
「アイツが聞くとは思えないな・・・・・・楽しみだけど
「そういえばヴィンセントは今年も海に入らないのか?」
「ああ、悪いが私は遠慮させてもらう」
「何でだよ?」
「デンゼル、ヴィンセントには色々事情があるんだ、察してやれ」
「でも寂しいじゃんか。ユフィも寂しがってたし」
「ユフィが?」

思わぬ人物の登場にヴィンセントはプレートを押す足を止める。
ヴィンセントが海に入れなくてユフィが寂しがっているなどと夢にも思わなかったのだ。
確かにユフィは事あるごとにダメと分かっていながらヴィンセントを海水浴に誘っていた。
その度にヴィンセントも断っていたが、まさかその裏で寂しがっていたとは。
なんだか今まで悪い事をしてきたような気持ちになる。

「ユフィが、今年もヴィンセントは泳がないんだろうなって溜息吐いてたのを見たぞ」
「・・・」

ユフィには悪いが、意外だった。
自分が海に入らない・入れない事についてそんな風に思っていてくれたなんて。
少し・・・嬉しかった。

「最近は着たまま海に入れるパーカーとか上着があるらしいからそれを着てみたらどうだ」
「そんな物があるのか?」
「ああ、雑誌で読んだ」
「・・・検討はしておこう」
「なるべく良い方向に決断をしてくれ。ユフィが喜ぶだろうからな」

そう語るクラウドの表情は妹を思う兄のような横顔だった。
なんだかんだ喧嘩したりじゃれ合ったりする二人だが兄妹のような絆があるのだろう。
クラウドの申し出を無駄にしない為にも、そしてユフィを寂しがらせない為にもヴィンセントは確かに頷く。

「分かった」

それだけで伝わったのか、クラウドも隣にいるデンゼルも良かった、という風に笑みを浮かべた。
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