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□桜を見せたい
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それからしばらく歩いてユフィのお気に入りの場所・ダチャオ像の上に到着する。
ダチャオ像の上は変わらず眺めは良く、また桜の季節という事もあって桜色に染まったウータイを一望出来るここはまさに特等席である。
二人並んで座り、買ってきたものを開けて高所からの花見を始めた。

「いっただっきま〜す!」
「・・・いただきます」
「ん〜!団子美味しい〜!桜を見下ろしながら食べる団子は格別だね!」
「花も団子も楽しめるという訳か」
「そーいうこと!」
「それでもお前は花より団子だろう?」
「そんなことないですよ〜だっ。花もちゃんと楽しんでるっての」

ユフィは少し拗ねて見せながら団子を頬張る。
その後は桜餅に手を伸ばして「桜餅んま〜!」と舌鼓を打った。
やっぱり花より団子なんじゃなかろうか。

「でもホント、今日来れて良かったよ。見た感じピークみたいだからさ」
「そうだな」
「まさかヴィンセントが一緒に来てくれるとは思わなかったよ。いつもだったら『遠慮する』とか言って断るのにさ」

声を低くして表情まで自分の真似をするユフィに呆れたように軽く息を吐く。
そこまで真似をする必要があるのか。

「・・・あまり似てないな」
「えー?嘘だー!」
「35点だ」
「低すぎ!」
「ならば40点だ」
「5点上がっただけじゃん!」
「それより私が共に来た理由だが、私も桜が見たかっただけだ。
 お前に誘われるまでウータイが桜の季節だと気付かなかったからな」
「気付いてたら一人で行ってた?」
「・・・判らんな。テレビや新聞で見る程度で終わらせていたやもしれん」
「ふ〜ん、それなのによく来る気になったね」
「自分でも不思議だ」
「か〜わいいユフィちゃんが一緒だから行く気になったんだろ〜?」
「それは違うな」
「こっから突き落とすぞコラ」

膨れっ面をするユフィを横目に団子を一つ頬張る。
気持ちの良い青空の下、眼下の満開の桜を眺めながら食べる団子は格別だ。

「・・・お前は」
「ん?」
「毎年桜を見に帰っているのか?」
「うん。一年に一回しか見れないし、戦争してた時は全然見れなかったからさ。
 状況が状況だから見れないのは当たり前だったんだけど、せめて母さんと見たかったな〜って」
「・・・桜を見れずに還ってしまったのか?」
「うん、桜が咲く直前にね。戦争やってるからどのみち見れないだろうけど、なんて言ってたら終わった」

抑揚のない声で答えるユフィはただ遠くを見つめている。
しかしその瞳に仄かな哀しみが湛えられているのをヴィンセントは見逃さなかった。
あまり良くない質問をしてしまったと思う。
しかし気の利いた言葉をかけてやる事が出来ず、ただ静かに目を伏せる事しか出来なかった。

「それから一人で見るようになって、団子食べながらこーしてのんびり桜を眺められる時間ってキチョーなんだなって気付いた」
「・・・だから、今度こそ奪われないようにウータイを飛び出してマテリアを探していたのか」
「そ。ウータイを復興して何が来ても負けない強い国にすればアタシを含めたウータイのみーんなが毎年平和に桜を見られるからね。勿論戦争をする為の力じゃなくて大切な人たちを守る為の力だけどさ」

三年前までのユフィはただひたすらに武の国・ウータイの復興を目指していた。
神羅に二度と負けない、武力を翳したウータイを。
しかし五強の塔での試練とゴドーとのぶつかり合い、そして彼女自身の成長と共にその考えは良き方向へと変わった。
それは武力を翳すのではなく愛するウータイの民を守る為の堅固な盾となり、ウータイの民に仇なすものを討ち滅ぼす剣になる、というものだ。
今の発言を見てもユフィは攻撃的な強さではなく、守る為の強さをウータイに求めているのがよく分かる。
三年という長いような短いような、けれども十分な時間が彼女を成長させたのだと思うと感慨深いものがあり、ヴィンセントは何だか嬉しかった。
子供の成長を見守る親の気持ちとはこういうものなのだろうか。

「ま、そーいう訳だからウータイ強化計画の為にマテリアの募金宜しく〜!随時受け付けてるからね!」

少し湿っぽくなった空気を吹き飛ばすようにユフィが冗談半分に笑って軽く掌を差し出して来た。
本気で貰おうというつもりで差し出してるのではないのは分かっているがそれでも―――

「ならば協力するとしよう」

『かいふく』のマスターマテリアを一つ、ユフィの掌の上に置いた。
沢山マテリアを持っているユフィにしてみれば『かいふく』のマテリア一つくらい大した事はないだろうが、それでも。
彼女が傷ついた時に、彼女が誰かの傷を癒やしたいと思った時に、一つでも多く傍に存在して力になれるように。
細やかなる願いを込めて渡すマテリアに予想通りユフィは狼狽えた。

「うぇ、ええっ!?ほ、本当に貰っていいの!?」
「募金を受け付けていると言ったのはお前だろう。いらないのなら返してもらうが」
「い、いらなくない!アタシの物!後で返せって言っても返してやんないからな!」
「元より返してもらえる期待はしていない」
「と〜ぜんだよ!もうアタシの物なんだから!」

ユフィは取られないように両手で包むと隠すように胸に寄せた。
そして自分にしか見えないようにそっと掌を開いてもう一度マテリアを覗き見ると、とても嬉しそうに微笑んだ。

「エヘッ、エッヘヘ!募金ありがと!大切にするよ!」
「失くさないようにな」
「失くすもんか!絶対・・・絶対大切にする!」

『かいふく』のマテリア一つでこんなにも喜ばれて少し驚く。
そんなに嬉しかったのだろうか?
自称マテリア育成のスペシャリストのユフィなら『かいふく』のマテリアくらい沢山持っていそうなものだが・・・不思議だ。
不思議だけれどユフィが喜んでいるならそれでいい。

誰もが愛らしいと思える笑顔を湛えるユフィの隣で桜を眺めながらヴィンセントはまた一口、団子を食べた。













END
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