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□ガリアンの特権
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「お、ガリアンじゃん!」

ガリアンに変身したヴィンセントを見るなりユフィはガバッと抱きついてきた。
いや、飛びついてきた、という表現の方が正しいだろうか。
まるで抱っこちゃん人形のようなその抱きつき方には毎度苦笑が漏れる。

「ユフィ、今は任務中だ。モフモフとやらは後にしてくれ」
「えー?いいじゃん別に。だって今日はもう終わりでしょ?」
「拠点に戻るまでは油断するなと言っている」
「ちぇー、仕方ないなー。じゃ、もう少ししたら」

そう言ってユフィは、ユフィ曰く一番柔らかくてモフモフしているという首の辺りに頬擦りをし始めた。
全く、人の話を聞いているんだかいないんだか。

「ところで何でガリアンになってんの?森に入ってる時になんかあった?」
「隊員が群れに囲まれていて咄嗟にガリアンに変身した」
「へ〜、そりゃ大変だったね」

「偉いぞ〜」なんて言いながらユフィはよしよしと頭を撫でてくる。
まるでペットのような扱いだ。
ちなみにガリアンの変身については最初の頃こそは隊員たちに驚かれていた。
そしてそんな自分にどう接したら良いか分からず、皆距離を取っていたが今では慣れたもので普通に接してくるようになった。
むしろ動物好きの何人かの隊員が興奮することもしばしば・・・

「ガリアンの毛はモフモフで最高だけど肉球がないのが残念だよ」
「それはナナキに求めるんだな」
「でも嫌がるんだもん、ナナキってばさ。だからヴィンセント、頑張って生やして」
「無茶を言うな」

呆れて溜息を吐く。
いくら未知の野獣と言えどそんな芸当は出来ない。
ていうか出来たら嫌だ。
そんなヴィンセントの胸中など露知らずユフィは肉球なんかない野獣の掌に自分の手を這わせる。
最初は毛並みに沿って撫でてきて、次に拳を作って軽く当ててきた。
不意打ちでその手を握ってやったらきっと驚くのだろうが・・・鋭い爪があるこの手でそれは叶わない。
どれだけ慎重に握ろうともなんの拍子で傷付けてしまうか分かったものではない。
ヴィンセントにはそれが歯痒いと感じた。

「・・・ユフィ、そろそろ変身を解くぞ」
「もうちょっとだけー」
「ダメだ」

強く言えば「仕方ないなー」などと言ってユフィは離れた。
本当はもう少しの間だけガリアンでいられるのだがそろそろ隊員たちの視線が痛い。
ていうか見て楽しんでるのがチラホラいる。
名残惜しくはあるがそういったものにヴィンセントは耐えられないし、何より今は任務中だ。
終わるまではそちらに集中しなければ。

(名残惜しい・・・)

ふと頭の中に浮かんだ言葉にヴィンセントは不思議な感覚に陥る。
まだ任務中で、隊員たちから向けられる冷やかしの目が嫌なのに何故ユフィが離れてしまうのが名残惜しいのか。
追及しそうになる思考を、しかしヴィンセントは強制遮断した。
これ以上は追及してはいけない気がしたからだ。
追及してしまえば今の関係が崩れてしまいそうな、そんな気がした。

「ヴィンセント、またガリアンになりそうだったら教えろよ。目一杯モフモフするからさ!」
「お前は本当にガリアンが好きだな」
「だって全身でモフモフ出来るんだもん!キチョーな存在だよ!あ、キチョーな存在だからモフモフしていいのアタシだけね」
「何故そんな話になる」
「ブラッシングしてやったり角磨いてあげてんじゃん」
「それはお前が勝手にやっている事だ」
「とにかく!ガリアンモフモフ特権はアタシだけのものだから他の人に気安くモフらせちゃダメだからね!」
「マリンとデンゼルはどうなんだ」
「あれはー・・・特別枠」
「ティファは?」
「あ、ティファも触る事あるかー。でも抱きつきはしないでしょ?」
「中身が私だと理解しているからな。それにクラウドが絶対に許さないだろうしな」
「だろーね。ま、ティファも特別枠って事で。そんな訳だからアタシの許可なく他のやつ抱きつかせんなよ〜」
「それの決定権は私にあると思うのだが」
「それも特権って事で」
「都合がいいな」

呆れ混じりにヴィンセントは苦笑を漏らした。
まぁ、ユフィの特権にした所で何も困る事はない。
ガリアンに抱きついてくるのはユフィくらいなもので、後は先に挙げたようにマリンとデンゼル、ティファが触ってくる程度だ。
その辺に関しては好きなようにやらせようと思いながらヴィンセントは変身を解くのだった。


















あれからしばらくして。
現在ヴィンセントは隊員を連れてモンスター討伐任務に当たっていた。
そしてまたガリアンになっていた。
ちなみに今回の任務にはユフィは同行していない。
なので、折角のガリアンモフモフタイムもユフィは味わえないという事になる。
隊員を助ける為に咄嗟に変身したのでこれは仕方ない、ヴィンセントは悪くない。
遠方で任務に当たっているユフィに「悪いな」と言葉とは裏腹に意地悪な笑みを浮かべて心中で呟く。
「教えてって言ったじゃん!」と悔しそうに怒鳴るユフィの姿が広く澄み渡る青空に浮かんだ。
そこに―――

「あのー、ヴィンセントさん」

声をかけられて振り向くと3人の隊員が瞳を輝かせてこちらを見ていた。
三人のうち二人は女で、一人は男だ。

「何かあったのか」
「いえ、ヴィンセントさんに折り入ってお願いがありまして」
「お願い?」
「ヴィンセントさん!」
「貴方を!」
「モフモフさせて下さい!」
「は?」
「我々、実は動物愛好家サークルの者なんです」
「今回は我々が代表としてヴィンセントさんが変身するガリアンにモフモフさせていただこうとお願いしに来た次第であります!」
「ガリアンは動物ではなくて野獣で、どちらかというとモンスター寄りだ」
「他人を傷付けないモフモフしたものは皆動物です」

さっきから黙っていた男の方が鋭く言い放つ。
キリッとした表情で言ったのがなんだか腹立つ。
それはそうと、こんな野獣に興味を持つなんて物好きだなとヴィンセントは思った。
仲間たちは心許した仲であるから別として。
どうしようかと考えたヴィンセントだったがすぐにある事に思い当たって首を横に振り、三人の申し出を断った。

「悪いがその願いは聞いてやれない」
「ええっ!?どうしてですか!?」
「モフモフは人々の心を豊かにするんですよ!?そして行く行くは平和に繋がるのが何故分からないんですか!?」

ヴィンセントにはこの男のモフモフへの拘りがよく分からなかった。

「ガリアンを触るには特権者の許可が必要だ。それがない以上は許可無く触らせる事を禁じられているのでな」
「特権者?ガリアンはヴィンセントさんのものではないんですか?」
「それが特権者が現れてしまってな。触りたければその特権者を説得してみるといい」

変身を解いて踵を返すヴィンセントに動物愛好家サークルの者たちは追い縋ろうとする。

「お、お待ちください!ガリアンのモフモフを独り占めする特権者ってどなたですか!?」
「すぐに分かる」

ヴィンセントは薄く笑うと静かにその場を立ち去った。
その背中を動物愛好家サークルの者たちはただただ見つめる事しか出来なかった。




その後、すぐに特権者が誰なのか判明したのは言うまでもない。










END

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