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□自分に合うゲームを見つけたい
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『あ、きた!』

忙しい笛と太鼓の音色、ガヤガヤと行き交う人々の沢山の声。
キラキラと光る提灯と屋台の光。
そして様々な模様や色の浴衣が視界を彩る中、金魚が泳いでいる模様のピンク色の浴衣を着たユフィは祭りの入り口となる場所に立っていた。

『おっそい!祭りはもう始まってんだぞ!?』

頬を膨らませて怒るユフィに遅刻した理由を話すと、いくらか納得してくれたのか、少しだけ怒りを鎮めてくれた。

『なら仕方ないけどさ・・・でも、遅れた分は取り戻してもらうよ!ホラ早く!!』

子供のように無邪気に笑って腕を引っ張ってくるユフィに自分はこの時一体どんな顔をしていたのだろうか。
強引に引っ張られていると、突然視界全体を白い霧のようなものが周りから立ち込めて一瞬にして真っ白に染め上げた。
音も声もユフィも見えなくなる。
しかしその白い霧のようなものもすぐに晴れて、場面はいつの間にか射的屋の前に切り替わっていた。

『ヴィンセント!あれ取ってあれ!』

ユフィにせがまれるままにお祭り衣装を着たチョコボを撃ち落とす。
射的屋の店主が落とされたチョコボをユフィに渡すとユフィは満面の笑顔でチョコボを抱きしめながら礼を言ってきた。

『サンキュー!ヴィンセント!!これ欲しかったんだ!』

嬉しそうにはしゃぐ姿はまだまだ子供だと思った。
そこからまた白い霧のようなものが視界全体にかかり、また場面が変わった。
今度は花火を眺めている場面だ。
ユフィが穴場と言っていた所に人影はなく、二人っきりとなっている。

『たーまやー!』

花火が上がった時のウータイ特有の掛け声のようなものを空に向かってユフィが叫ぶ。
元気だなと思ってチラリとユフィの横顔を見た時に一瞬だけ息が止まった。

『花火キレーだねー』

そう呟くユフィの横顔は花火に照らされてとても美しかった。
普段の子供のような幼さは鳴りを潜め、大人の女を思わせる表情がそこにあった。

『・・・そうだな』

何に対しての同意かは自分でも分からなかった。



















「・・・夢か」

スズメがチュンチュンと鳴いて報せる朝。
ヴィンセントは目覚めると先程見ていたものが夢だったのだと気付く。
いや、厳密に言うとアレは夢ではない。
過去に実際にあった出来事を夢という形で思い出していたのだ。
先日、ユフィを女性として思っている自分に疑問を抱き、いつそんな風に思っていたかを黙々と考えていたからあんな夢を見たのだろう。
夢は脳が昼間の出来事を整理したり、直前に考えていたものを反映する事がある。
きっとそれらによる影響などではないかと思う。

「・・・準備をするか」

今日はユフィの家でゲームをする日。
遅刻したらまた夢の中の時のように頬を膨らませて怒るかもしれない。
ヴィンセントは苦笑をしながらベッドから起き上がり、出かける準備を始めた。
今日はオフの日なのでラフな格好をしていく。
一応、護身用の物は持っていく。
落ち着きを取り戻した世の中とはいえ、まだ少しだけならず者は徘徊している。
後は今日ゲームを触らせてもらう礼を兼ねたお菓子を持って家を出た。


こうして普通の格好をして街の中を歩くと自分も街の風景の一部になっている気になる。
普段の赤マントでも違和感はないと言えばないが、でもどちらかというとこっちのラフな格好の方がより景色に溶け込めているような気がする。
不老不死だった頃は自分だけ切り取られた時間の中を歩いている感覚が強かったが、今はそんな感覚はこれっぽっちもしない。
本当に、自分は普通の人間に戻ったのだと実感する瞬間だ。



「よっ!ヴィンセント!ちゃんと来たね!」

ユフィの家の前に来てインターホンを押すと、ユフィは待っていましたと言わんばかりに勢い良くドアを開けて快くヴィンセントを出迎えてくれた。

「今日は宜しく頼む」
「ふっふーん、まっかせなさ〜い!このユフィちゃんがヴィンセントに合うゲームを探して進ぜよう!」
「それから菓子を持って来た」
「マジで!?さっすがヴィンセント!早速食べながらゲームやろっ!」

夢で見た時と同じように忙しなく腕を引っ張ってくるユフィに内心苦笑しながら家の中に上がる。
旅の途中でウータイのユフィの家に入った時と同じ和やかな香りが家の中に漂っていてヴィンセントの鼻腔をくすぐる。
ユフィに導かれるままに廊下を歩いてキッチンを通り過ぎると自分の住んでる部屋とあまり変わらない広さの部屋に到着した。
部屋の中は机の上に雑誌やペンと紙が転がっている程度で言うほど汚れている訳ではなかった。
しかしその中でもヴィンセントが意外に思ったのがベッドの上の枕の横に置かれているモーグリの人形だった。
まさかユフィがあんな物を枕の隣に置いて寝てるなんて―――。

(何を観察しているんだ私は・・・)

「ヴィンセントはここ座りな!」

己のいやらしさに嫌悪しつつユフィに指定された場所に腰を下ろす。
柔らかい座椅子がヴィンセントを優しく迎え、質の良い綿と生地でもてなす。
傍には卓袱台が置かれており、先程ヴィンセントが持って来たお菓子が皿に乗せられて出された。

「クッションいる?腕の下に置くと楽チンだよ」

そう言ってユフィが取り出したのはドラク◯のスライ◯の巨大ぬいぐるみだった。
流石に色々アレなので丁重にお断りする。

「いや、今はいい。ありがとう。それよりお前がこの座椅子じゃなくていいのか?」
「うん、アタシ座布団あるし」

ユフィは自分が下に敷いている座布団を軽く叩いてその存在を示す。
中々柔らかそうなそれに関心していると、何の予告もなく黒い物体を差し出される。
スティックやボタンが付いているのを察するにこれは・・・

「これがコントローラーか?」
「そ」
「今時のは厚みがあるのだな。私がまだタークスをしていた頃は煎餅のように平らで薄かった」
「ヴィンセント、ゲームしてたの?」
「いや、ルクレツィアがやっていた」
「はぁ!?ルクレツィア・・・さんが!?」
「研究の息抜きにこっそりやっていたらしい」
「へー・・・ゲームやってたんだ、あの人・・・」
「私も最初見た時は驚いた。ニブルヘイムという田舎にいながら一体どこで新作ソフトを・・・」
「なんか親近感湧いた。それよかゲームやろっか。このボタン押して」
「これか?」

ユフィに指示されるがままにコントローラーの真ん中にあるボタンを押すと、機械からピッという音が鳴ってテレビ画面にゲームのホーム画面と思われるものが表示された。

「これは・・・起動したのか?」
「そーだよ」
「これはなんの画面だ?」
「ホーム画面。こっからゲームとかチャットとかダウンロードとか色々すんの」
「・・・今時のゲームは何でも出来るのだな」
「凄いっしょ?何からやる?色々あるよ」

左スティックを突かれて試しに左右に動かしてみると、隣にあるゲームが次々とピックアップされて表示されていく。
恐るべし、次世代ゲーム機。
一つずつ何があるのかと確かめていけば様々なタイトルのゲームの他に動画やらインターネットのページなどが表示され、果てにはスクリーンショットというゲーム内で撮影した写真まで出てきた。
時代はこんなにも進んでいるのかと感心せざるを得ない。

「なんか気になるゲーム見つけた?」
「そうだな・・・このメタリック・ギア・ソリッドというのはなんだ?」
「あーこれ?これはスニーキングゲームって言って、要は現実のアタシたちみたいに敵地に潜入して情報を集めたり工作したりするんだよ」
「武器は?」
「ヴィンセントの大好きな銃」
「やってみるとしよう」

我ながら単純な動機にユフィすらも笑いを漏らしている。
けれどゲームがどれだけ潜入の緊張感とスリルを表現しているか気になるではないか。
そんな事を思いながらユフィにゲームの始め方をレクチャーしてもらい、わざわさ新しい続きまで作ってもらった。
どうやら初めからやった方がゲーム内でチュートリアルの説明が入り、操作がそれとなくわかるのだとか。
最近のゲームは凄いだけでなくここまで親切なのかと驚く。
そうして始めたゲームは意外にも緊張感やスリルがリアルに表現されており、中々にハマった。
ハマってしまったから、ユフィがヴィンセントの足を枕に寝ているのに気がつかなかった。

「ユフィ、このトロフィーというのは・・・ユフィ?」

ヴィンセントの足枕で心地好さそうに寝息を立てるユフィ。
ヴィンセントが夢中になっているのをずっと横で見ていたから退屈になって寝てしまったのだろう。
なんだか申し訳ない気持ちになり、謝罪の意味を込めてそっとユフィの頭を撫でた。

「次は二人で出来るゲームをやるか」

そっと呟いてヴィンセントはテレビの音を小さくしてゲームを再開するのであった。









END

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