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□携帯を買い替えたい
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そこからはもう悪戦に続く苦戦、まさに悪戦苦闘というやつだった。
セブンスヘブンで説明書を開きながらユフィに丁寧に設定の仕方を教わり、二時間もかかって漸く基本設定が完了した。
ユフィ曰くガラケーと呼ばれていた、ヴィンセントが今まで使っていた携帯はここまで面倒ではなかったのに・・・。
一体何なのだ、指紋認証だのマイクラウドだの電波の設定だの。
シムフリーとやらを理解するのでやっとなのにそこから訳の分からないものが追加されてヴィンセントは情けなくも何度も逃げ出したくなった。
けれど一生懸命付き合ってくれているユフィや適度にコーヒーを出してくれるティファを見ていたらそういう訳にもいかず、ヴィンセントは頭痛がしそうな頭を奮い立たせてなんとか立ち向かった。
その戦いの果て、隣でぐったりとカウンターに突っ伏すユフィを見やり、感謝と申し訳なさが入り混じった気持ちでヴィンセントはティファにデザートの注文をした。

「ティファ、ユフィに甘いデザートとジュースを出してやってくれ。支払いは私が持つ」
「はーい。ユフィ、何が食べたい?」
「ホットケーキ3枚重ね、生クリームとシロップたっぷりで・・・」
「飲み物は何にする?」
「オレンジジュースがいい・・・」
「判ったわ、ちょっと待っててね」

オーダーを受けたティファはホットケーキミックスと牛乳、卵を取り出すとホットケーキ作りに取り掛かった。
やがてホットケーキのふんわりとした香り、オレンジジュースの爽やかな匂いが漂ってくるとユフィはむくりと起き上がり、ホットケーキたちの到着を待った。
そして・・・

「はい、お待ちどう様」

フワッフワのホットケーキとキンキンに冷えたオレンジジュースがユフィの前に提供され、ユフィは元気を取り戻す。

「いっただっきまーす!」

元気よく食べる前の挨拶をしてユフィはホットケーキを一口サイズに切り分けて頬張り始める。
ヴィンセントは甘い物はあまり食べないので本当にその気にはならないが、それでもホットケーキを美味しそうに頬張るユフィを見てると食欲をそそられた。

「・・・ティファ、コーヒーゼリーをくれないか」
「うん、ちょっと待っててね」

頷いてティファは冷蔵庫からコーヒーゼリーを取り出してスプーンと一緒にヴィンセントの前に出した。
黒く輝くゼリーは薄っすらとヴィンセントの顔を反射し、早く食べてと彼を誘う。
慌てずとも逃げたりはしない、なんてこの場には似つかわしくないセリフを心の中で呟いてスプーンで一口掬う。
口内に含んだ瞬間、コーヒーゼリーのほろ苦い味と上品な香りが広がり、先程までの疲労が癒されるようだった。
疲れた時には甘い物、という言葉もあながち嘘ではないようだ。

「ヴィンセンとー、ヴィンセントのマイフォン貸して」
「まだ何か設定が必要か?」
「必要なアプリダウンロードしてあげる。あ、やっぱ教えてあげる」
「どうすればいい?」
「まずこのパイナップルストア押して」

言われた通りにパイナップルストアと書かれたアプリを押すと何やら沢山のアプリ広告が表示された。

「ここの検索押してみ」
「ああ」

言われた通りに『検索』と書かれた文字をタッチすると検索メニューが表示された。

「ここから検索してダウンロードするのか?」
「そ!そこでラインって入れて見て」

言われた通りにラインと打ち込んで検索を押すと、数秒経って検索結果が表示された。
検索結果の一番上にはカタカナで『ライン』と書かれた水色のアイコンアプリがあった。

「このダウンロードってやつ押して」
「金は取られないのか?」
「これは無料だからダイジョーブ。有料だった場合はこのダウンロードってとこに金額が表示されるから」
「ほう。それで、このラインというのはなんだ?」
「メールなんかよりも楽にやり取りしたり通話が出来るんだよ。通話料はかからないし」
「そんな都合の良いアプリなのか?」
「そ。メアド変更しましたーって連絡もしなくていいし、するにしても連絡したい人だけに教えられるんだよ。
 スタンプとかも押せて楽しいし」
「スタンプ?画面に押すのか?」
「アハハ、違うって!ちょっと待ってろよー」

ユフィは自分のマイフォンを取り出すとヴィンセントのマイフォンと一緒に軽く振り始めた。
一体何をやっているのだろうと困惑しながら見ているとユフィが「登録カンリョー!」と言ってヴィンセントのマイフォンを返してきた。
するとヴィンセントのライン画面にはユフィの名前が表示されていた。

「お前の名前が表示されているな」
「今登録したからね。やり方も後で教えてやるよ。それよかアタシの名前押して」
「ああ」
「これがトーク画面ってやつでここに文章を打つんだよ。スタンプってのはここ押してみ?」
「これか?」
「そうそう。下になんか出てきたでしょ?それでこのキャラをタッチして」
「ああ」
「なんか出てきたじゃん?なんかどれか押してみな」

そう言われてスタンプを選ぶヴィンセント。
ユフィが「下にもスクロールできるから」と補足して指を上にスライドさせてスクロールさせてみせた。
こんな事も出来るのかと内心小さく驚きつつ、「OK!」という絵が目に飛び込んできたのでそれをタッチしてみた。

「それを二回タッチするかこのボタンを押すとスタンプが押されるよ」

言われた通りに二回押すと、ポンッという音と共にスタンプがトーク画面に表示された。

「これがスタンプか」
「このスタンプで簡単な返事したり意思表示が出来るんだよ。話すのが得意じゃないアンタには便利だよね〜」
「・・・煩い」
「ちなみにスタンプはいろんな種類が売ってるから今度買い方教えてあげる。でも今はきゅーけー・・・」

ペタリとユフィはカウンターに突っ伏す。
本当によく付き合ってくれたと思う。
労いの意を込めてティファにパフェの追加注文をした。
ティファは快く頷いてパフェの製作に取り掛かるのだった。

「そーだ、後でグループに招待してあげる」
「グループ?」
「複数の人とトーク出来んの。アタシたちの仲間のグループで入ってないのヴィンセントだけだよ」
「それは・・・すまなかったな」
「罰としてアタシのトークに付き合うことー」
「それは違うな」
「ちぇー」
「・・・分かっていると思うが、頻繁にラインで電話をかけてきても私は全てには出られないからな」
「うぐっ、ちゃっかり釘刺してきたな・・・でも任務以外ならいいでしょ?」
「常識のある回数で頼む」
「何さソレ」
「まぁまぁ。ユフィがここまでしてくれたんだからちょっとくらいはいいじゃない、ヴィンセント。
 ユフィもヴィンセントと沢山話をしたいのは分かるけどほどほどにね。ヴィンセントにだって都合があるんだから」
「う〜ん、そっかー・・・じゃぁそーする」

流石ティファ。
母親さながらに諭し、険悪になりそうだった空気を丸く収めた。
その結果、ユフィはティファの提案に渋々と、けれどやや残念そうに受け入れた。
しかしこれにはヴィンセントも反省をしている。

「すまなかった、ユフィ。少し言いすぎた」
「ううん、アタシの方こそヴィンセントの都合考えてなかった。ごめん。でもライン通話はしていいでしょ?」
「ああ。だが、いきなりかけられても必ずしも出られる訳ではない。そこは分かって欲しい」
「んー、じゃぁ通話する前にライン入れるよ。それならいでしょ?」
「ああ」
「やった!なら今日の夜にかけるね!」
「・・・事前告知をしてもちゃんと一言入れるようにな」
「分かってるって!!」

先程とは打って変わって喜び全開の笑顔を浮かべるユフィに内心苦笑しながらヴィンセントはコーヒーゼリーの最後の一口を頬張るのだった。
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