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□天ぷらそばを食べたい(リベンジ)
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今日はユフィに天ぷらそばを作ってもらう約束の日。
冷蔵庫の中の食材を確認し、調理台の上に置いた器具を確認する。
買い漏れはない、不備があるものはない。
完璧な布陣にヴィンセントは薄く満足の笑みを浮かべる。
万が一、足りないものがあれば財布を持ってすぐさま買いに行くつもりだ。
その為の準備だって万全である。
後はユフィが来るのを待つだけ。
早く来ないかと何度も時計を見たり本を読んで暇を潰していると、待ちに待ったインターホンが鳴り響いてヴィンセントに来客を伝えた。

「来たか」

逸る心を抑えつつ玄関の扉を開ける。
すると、待っていたユフィがチョコボ柄の手提げを手に、いつもの元気な笑顔で挨拶をしてきた。

「よっ!」
「待っていた。上がってくれ」
「おっ邪魔しま〜す!」

ユフィは遠慮なく中に入ると靴を脱いで上がった。
そして準備がなされているキッチンを見て軽く驚く。

「お!もう準備出来てるじゃん!流石だね〜。そんなにアタシが作る天ぷら食べたかった?」
「そんなところだ」
「へへ〜、じゃあ心込めて作ってやるよ!」

ユフィはニカッと笑うと手提げの中からエプロンを取り出して着用し始める。
エプロンはシンプルなデザインではあったが、胸の部分に行儀よく椅子に座ってナイフとフォークを持つ猫のイラストがプリントされており、ポケットなんかは猫の手の形をしていた。
猫が好きなユフィらしいエプロンである。
そして予想通り、ユフィはエプロンについて自慢してきた。

「どうどう?可愛いっしょ?」
「悪くはないと思うが」
「そこは素直に可愛いって言えよ」
「では、可愛い」
「もういいよ」

ユフィは呆れ気味に溜め息を吐くとさっさとキッチンに行ってしまった。
少し機嫌を損ねてしまっただろうかと心配しつつヴィンセントもエプロンを着用して髪を一つに結ってキッチンに入る。

「んじゃ、まず最初は粉をボウルに入れて―――」

ヴィンセントはメモ帳とペンを用意してユフィの説明をしっかり聞きながら天ぷらの作り方をメモした。
判らない所や細かい所は逃さず質問し、次々と書き留めていく。
天ぷらに対する情熱は半端なものではなかった。
ちなみに、メモの枚数は三枚にも及んだ。
さて、あらかた揚げた所でユフィが次なる指示を出してきた。

「さ、次は仕上げだよ。そば作るよ」
「判った」
「ヴィンセントは濃い味が好き?それとも薄味?」
「ふむ・・・濃い味だな」
「はいよー。んじゃ、めんつゆの量はこのくらいだね。それから水はこのくらいにして―――」

めんつゆの量も漏らす事なく書き留めて記憶する。
そうしてそばが出来るの待っていると次第に鍋が沸騰してきてめんつゆ独特のあっさりとした香りがキッチンを包んだ。
この芳しい匂いが鼻腔をくすぐり、空腹を助長させる。

「さー出来た出来た!丼にそばと汁を移すぞー!器はある?」
「ああ、新しいのを買っておいた。こっちがお前の丼だ」
「あ、ウサギ!いいの買ってきてんじゃーん!」

ウサギの柄がプリントされた丼を前にユフィは感激の声をあげる。
ティファの助言通り、ウサギの丼を買っておいてどうやら正解だったようだ。
こうして喜んでもらえるのはこちらとしても嬉しい。
ヴィンセントの頬も自然と緩む。

「器が可愛いと食べるご飯ももっと美味しくなるよね」
「そう、かもしれないな」
「そーだよ。さ、そばと天ぷらが冷めない内に移すよ!」

ユフィの指示の元、そばと汁を均等に丼に分け入れる。
そしてそれらの上に先ほどユフィが揚げた天ぷらを盛り付けていく。
天ぷらに僅かに残っていた油が汁に反応してジュゥウウという耳に心地良い音を奏でた。

「食べよっか!」
「ああ」

丼を運んで席に着く。
手を合わせて「いただきまーす」というウータイ独特の食べる前の挨拶をするユフィに倣ってヴィンセントも手を合わせて小さな声で「いただきます」と呟く。
そして箸を手に持ち、手始めにカボチャを掴んで汁に軽く浸す。
火傷に気を付けながら齧ればサクサクとした衣と熱々に揚がったカボチャがそばの汁と極上のハーモニーを奏でながら口いっぱいに広がった。
うん、美味しい。
これはユフィが美味しそうに食べる訳だ。

「どう?美味しい?」
「ああ、美味い」
「だろ〜?このユフィちゃんが心を込めて作ったんだからとーぜんだよね!」
「お前の料理スキルが確認出来たのは収穫だったな」
「へっへーん、どーだ!これからはユフィちゃんを舐めんなよ!」
「そうだな、天ぷら『は』安心してもいいだろうな」
「天ぷら『は』ってどーいう意味だよ!!」

表情をコロコロと変えながら抗議をするユフィが見ていて飽きない。
つい、遊んでしまう。

「大体、ヴィンセントの方はどーなんだよ?料理出来んの?」
「それなりには」
「なら今度作ってみてよ。それで不味かったらマテリア貰うからね!」
「何故そこでマテリアが出てくる・・・」
「今までアタシを侮ってた罰だよ!」
「仕方ない。だが、もしもお前が『美味い』と言ったらその日の食器類全て片付けてもらうぞ」
「いいよー?臨むところじゃん!」

挑戦的な笑みを浮かべるユフィに対してヴィンセントは勝機のある笑みを浮かべる。
これは勝てる。
ユフィの事だからティファの手を借りるなと言うだろうが、借りるまでもない。
何故ならヴィンセントには『過去の実績』というものがあるからだ。

「あ、言っとくけどティファの手は借りるなよ〜?」
「ああ、分かっている」
「絶対だかんね!」
「分かっている」

その後、ユフィに料理を振る舞う日取りを決めて食事を再開した。
勝利の前祝いのエビの天ぷらは美味かった。














END

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