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□器具を買いたい
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とある休日にヴィンセントはメモを片手に再びホームセンターに訪れていた。
今日は一人。
ユフィはシェルクと買い物に行っていて今は居ない。
別の日に一緒に行こうかと聞かれたが待ちきれないので一人で買いに行くと言い、メモを書いてもらった。
一人で買い行けるのかと(心外にも)心配されたが、メモの通りに買い物をすれば良いのだ。
そのくらいは子供にだって出来る。

「・・・待っていろ」

この間食べれなかった天ぷらそばを食べるべく、ヴィンセントはカートを押してホームセンターに足を踏み入れた。















しかしメモの通りの物を買えばいいとはいえ、少々困った事になった。
例えば天ぷらを揚げる為に使う中華鍋なんか一つ取っても種類が沢山ある。
持ち手が一つの物もあれば二つの物もある。
果たしてどれを選んだらいいものか。
大昔のタークス時代の記憶を掘り起こしても中華鍋を使った記憶は一切ない。
あの時は本当に簡単な物しか作っていなくて、どちらかと言うとカップ麺や弁当の方が多かった気がする。
まぁ、今の食生活と大して変わらない気もするが・・・。

「あら?ヴィンセント」

よく知った声に呼ばれて振り向けば、買い物かご片手にティファが通路の入口に立っていた。
カゴの中にはフライ返しや木ベラなどが入れられており、新しく買いに来たのだろうという事が分かる。

「どうしたの?鍋か何か壊れたの?」
「いや、天ぷらそばを作る為の器具を買いに来た」
「天ぷらそば?」
「実は色々あって天ぷらそばを作る事になっている」
「一人で?」
「いや、ユフィに作ってもらう予定だ」
「ふーん、ユフィに・・・」

ティファは一人頷きながらクスリと綺麗に微笑む。
その笑みはまるで妹の事を思う姉のようなそれでユフィの事を大切に思っているのが伺える。
ユフィが料理を振る舞う姿を思い浮かべているのか、それともその光景を微笑ましく思っているのか。
どちらにせよ、ユフィの事を考えているに違いない。

「それで、何を買うの?」
「メモに書いてあるこれらを買うのだが、どれが適当なのか判らないでいる」
「何々、中華鍋に計量カップにトングに・・・後は食材ね」
「最初に中華鍋を買いに来たのだが、どれがいいか分かるか?」
「家で作るんだったらこの柄のついてるやつで十分よ。大きさもこれなら二人分は余裕で作れる筈よ」

言いながらティファは木の柄がついた手頃な大きさの中華鍋を手に取り、ヴィンセントに渡してみせた。
大きさと材質の関係でそこそこの重さとなっているが、鍛え上げている二人にしてみればなんてことはない。
ティファがこれでいいと言うのならこれでいいかと思い、ヴィンセントはそれをカゴの中に入れた。

「普通の鍋とかは大丈夫なの?」
「ああ、そこは問題ない」
「じゃあ、後は計量カップとトングね。軽量カップは大きいのを買うといいわよ。
 他の何かを作る時に例えば500ml必要ってなったりすると楽だから」
「なるほど」
「ところでバットはいらないの?」
「ああ、新聞紙の上にあげるからいらないそうだ」
「ふーん。まぁそうよね。洗い物増えちゃうし。そういえば、丼やお皿は二人分のあるの?」

聞かれてヴィンセントは頭の中に家の戸棚を思い浮かべた。
戸棚の中はスカスカで皿やコップなんてそれこそ一人分くらいしかない。
加えて丼など作って食べる事などなかったから一つも持っていない。
これでは天ぷらそばが食べれないではないか。

「・・・思えばないな」
「それじゃあ折角のおそばが食べられないじゃない。ここ、丼も売ってるからとりあえずここで買ったら?」
「そうするとしよう」
「丼コーナーの途中にトングと計量カップが売られてるコーナーがあるからそこに寄ってから行きましょう」

ティファの無駄のないルート計画と正確なマッピングに感心しつつ丼コーナーへと向かう。
一番最初の中華鍋購入ミッションで躓き、一時はどうなる事かと思ったが強力な仲間に巡り会えた事に感謝する。
天ぷらそばへの道に一気に近づいた気がした。
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