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□天ぷらそばを食べたい
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大衆がライトオーシャン第二ビルの前に群がる中を掻き分けて中に入り、屋上に辿り着いたヴィンセントとユフィ。
屋上の扉を開け放つとマフラー仮面は体に巻きつけた色とりどりの長マフラーを風にたなびかせつつ手すりの上に乗ってビル群を眺めていた。
腕を組んでカッコつけて立っている辺り、完全に舐めている。

「フッフッフッ、来たか!WROの犬どもが!」

「うっさいドロボー!アタシのマテリア返せ!!」
「・・・ユフィ、盗まれたのは一般の店のマテリアだ。お前のではない」
「近い未来アタシのマテリアになるんだからアタシのマテリアだよ!!」

とんでもない超理論だがもう何も言うまい。
さっさとこの男を捕まえて天ぷらそばを堪能しようではないか。
そう思って銃を構えようとするとマフラー仮面が『あやつる』のマテリアを取り出して言い放った。

「ユフィ・キサラギ、貴様の事は名うてのマテリアハンターとしてマテリア界隈では有名だ」

「と〜ぜ〜ん!アタシを誰だと思ってんのさ!美少女マテリハンターユフィちゃんだぞ!!」

「そう、マテリアハンターだからこそ貴重なマテリアを持っている―――貴様のマテリア、いただくぞ!」

「っ!?」

マフラー仮面が『あやつる』を発動するとユフィの体は途端に硬直し、やがて糸で操られているかのようにぎこちなく手が動き出した。
そしてその手はユフィがマテリアを装備しているバングルや不倶戴天に伸びようとしている。

「わわっ!?う、うそっ!!?」

「フハハハ!どうだ、大好きなマテリアに操られる気分は!?ついでだ、お前を脱がして裸踊りでごはっ!!!」

最後まで言い切る前にヴィンセントの華麗なるドロップキックがマフラー仮面に炸裂する。
気付いたら体が動いていたのだ。
ユフィが操られただけでも心底腹が立ち、まして脱がそうとした下卑た思考に自分の中で何かが切れて気づけばドロップキックをお見舞いしていた。
成人直前でまだ汚れを知らない少女であるユフィを汚し、その尊厳を貶しめようとしたこの男が絶対に許せなかった。
だからマフラー仮面がドロップキックをかまされた時に思わず手放した『あやつる』のマテリアを躊躇なくケルベロスで粉砕してやった。
ユフィが「あー!!」と叫ぶ声が聞こえたがそんなものは関係ない。
いくらユフィの大好きなマテリアでもこんな汚れた使われ方をしたマテリアなど持っていてはいけないし、存在してはならない。

粉砕してキラキラと飛び散って宙を舞うマテリアを浴びながらも、しかしマフラー仮面はカッと目を大きく見開いて二本の長マフラーを手に電柱や街頭などに次々と飛び移っていった。

「フハハハ!今日はこの辺にしてやる!また会おうではないか!!」

「待てこらー!!」
「追うぞ」

ユフィとヴィンセントは手すりを飛び越え、ビルからビルへと飛び移りながらマフラー仮面を追う。
飛び交って追いかけていく二人を下から見ている大衆がどよめきと歓声を響かせる。
二人に追いつかれそうになったマフラー仮面だったが、ふと視界に一人の女性―――ティファが目に入った。
ティファはマリンとデンゼルと一緒に買い物をしている所のようだった。

「ほう、中々の上玉!味見出来ないのが惜しいが操れるだけでも上等!人質にも出来て一石二鳥よ!!」

『あやつる』のマテリアを両手にバッとマフラー仮面が空中からティファの前に立ちはだかろうとする。
気づいたティファは素早く子供たちの前に出て臨戦態勢を取る。
その後ろでは仲間の窮地を救おうとユフィとヴィンセントが各々の獲物を炸裂しようとしていた。
すると―――


ブォオオオオオオオオオオンン!!!

ドォーーーーン!!!

「ぐぉおおおおお!!?」

大型バイク―――フェンリルが雄叫びをあげてマフラー仮面にツッコんできた。
運転手のクラウドはアクセル全開でマフラー仮面を轢き飛ばすと荒々しく道路に着地して急ブレーキをかけ、フェンリルを止める。
そしてゴーグルを外したクラウドはなんとも清々しい表情を浮かべていた。

「大丈夫か?ティファ」
「クラウド!うん、大丈夫よ、私はなんともないしマリンもデンゼルも無事よ」
「助けてくれてありがとう、クラウド!」
「今のすっごくカッコよかった!!」

我らがヒーローの登場と活躍に喜び、はしゃぐティファたち。
そんな家族たちのやり取りを邪魔せぬようにユフィとヴィンセントはひっそりとマフラー仮面が激突したビルへと向かう。
マフラー仮面はまるで漫画のような激突の仕方をしており、大の字でビルに張り付いていた。

「うわー、派手にいったね〜」
「お陰で気を失っているようだ。私がアレを縛るからお前は応援を呼べ」
「ほーい」

ヴィンセントは地面を蹴って跳躍し、マフラー仮面の足首を掴むとビルから引き剥がして再び地面へと着地した。
そしてマフラー仮面が装着しているマフラーで何重にもキツく縛り上げる。

「くっ・・・俺、は・・・このままでは・・・終わらん、ぞ・・・!」

拘束している途中でマフラー仮面が目を覚まし、諦めない宣言をする。
が、ヴィンセントからしてみれば愚か者の戯言にしか聞こえず、取り合う事すらしない。
いや、取り合う事すら馬鹿らしい。
人の天ぷらタイムを邪魔した奴の戯言を聞いてやれるほどヴィンセントだって優しい人間ではない。
足でマフラーの縛り目を抑え、強くマフラーを引っ張っていると、遠くからサイレンがけたたましい音を鳴らしてやってきた。
ユフィが呼んだWROの部隊が漸く到着したようである。

「おーい!こっちこっちー!」

飛び上がりながら手を大きく振って場所を報せるユフィ。
複数台の車が到着すると、次々と車の中からサングラスをかけた強面のマッチョたちが降りてくる。

「な、なんだそいつらは・・・!」

「アンタの為に特別に用意したマッチョ軍団だよ!そんなにマフラー巻いて暖を取りたかったら暖かくしてもらいな!!」

そこまでユフィが言い放つと二名のマッチョが前に出てマフラー仮面を担ぎ、連行をし始めた。

「や、やめろぉ!はなせぇ!!」
「大人しくしろ」
「する訳ないだろ!?お前何ちゃっかりマフラー巻いてんだ!!?やめろぉ、相合マフラーとかやめろぉおお!!」
「恥ずかしがるな」
「お前も何ちゃっかりマフラー巻いてんだ!?俺にそんな趣味はねー!!」

その後もマフラー仮面は何かしらを騒いで連行されたがユフィやヴィンセントにはどこ吹く風。
こうして悪は誅され、エッジに平和が訪れた。
ちなみに、この後にマフラー仮面がマッチョに目覚めたという噂がまことしやかに囁かれるがどうでもいいことである。












事件の解決を終えた二人は一目散にそば屋へと戻った。
恐らく天ぷらうどんと天ぷらそばはとっくに出来上がっている筈。
早く食べなければ天ぷらの衣がふにゃふにゃになり、折角のサクサク感が台無しになってしまう。
風の如き早さで走った二人はそば屋に着くと勢い良く扉を開け放って飛び込んだ。

「おっちゃん!!!アタシたちの天ぷらうどん―――」

「おー、俺たちが美味しく頂いたぞ、と」

店の中に入ると、二人が座っていた所にレノとルードが座っていた。
ルードはズルズルとそばを啜っており、レノは口の先からエビの尻尾を出しながらエビを食べている。

「あー!!アタシらの天ぷら何食べてんだよ!?ていうか何でここにいんだよ!!?」
「お前らがここを出た直後に俺たちが入って代わりに食べてやってたんだぞ、と。心配しなくてもこのメシ代は俺たちが払うぞ、と」
「当たり前だよ!!てか、アタシたちの代わりに食べるっていう発想が有り得ない!!」
「お前たちがこのまま戻って来るのが遅かったら天ぷらがふやけてうどんやそばが冷めてたぞ、と。
 そうなるとこの天ぷらは廃棄になる。食べ物を粗末にすると勿体無いお化けが出るぞ、と」
「その前にアタシがあんたらの枕元に立ってやるよ!!」
「騒ぐな、ユフィ。もう一度作ってもらえば―――」

「すまねぇお客さん!こっちの兄ちゃんたちに出した天ぷらが最後なんでぃ」

「はぁ!?最後ってどーいうこと!?食材ないの!?」

「ええ、お恥ずかしい事に」

「何で食材ないのさ!!?」

「実はこの店、明日には閉めてカームに移転するんですよ。それもあって食材を使い切ろうと思ってな」

「・・・という事は、今日はもう天ぷらは作れないのか?」

「そういう事になるなぁ」

「・・・」

申し訳なさそうに言う店主だが、もうその言葉はヴィンセントの耳には届いていない。
ヴィンセントは完全に固まっていた。

「・・・ヴィンセント?」
「・・・」
「天ぷら、食べたかった?」
「・・・・・・」
「で、でもカームに行けば食べれるらしいし、それまで待とうよ?ね、おっちゃん、すぐ店開くんでしょ?」

「いやぁ、それが二週間近くは時間がかかるんだよ」

「えー・・・」

「そ、それよりも兄ちゃん、カレーそばなんてのはどうだ!?カレーの方ならまだ残ってるし今なら詫びでタダで出すぜ!」

「だってヴィンセント!カレーそば食べよ!ね?」
「・・・・・・私は天ぷらが食べたい」
「でも無いって言ってんじゃん!だから諦めるしかないんだって!」
「・・・・・・」
「あーもう!!天ぷらそばくらいアタシが作ってやるから落ち込むなっての!!」

瞬間、ピクリとヴィンセントが反応してユフィを凝視した。

「・・・作れるのか?」
「作れるよ。ていうかその気になればヴィンセントでも作れるよ。今度教えよっか?」
「頼む。必要な器具や材料はあるか?」
「後でメモ渡すからとりあえず今はお昼ご飯食べよ!」
「ああ」

ヴィンセントは素直に頷き、席についてカレーそばを注文した。
あまりの態度の変わり様にレノもルードも、そして店主もポカンと呆気に取られる。
しかしそんな三人の心情を気にする事なくヴィンセントは天ぷらそばの事を考えながらカレーそばが出来上がるのを待つのであった。











END
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