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□天ぷらそばを食べたい
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めんつゆの濃くもあっさりとした香り、麺を茹でる熱気、湯を切る音。
ヴィンセントはそば屋が好きだ。
しかしそば・うどんはウータイ発祥の食べ物で、その店もウータイ人が主に経営しており、タークス時代では神羅がウータイと敵対していた事もあってそば屋なんてのはミッドガルになく、郊外の小さな小さな街くらいにしかなかった。
もっとも、そんな街に存在していたそば屋も神羅からの襲撃を恐れて撤退してしまい、ヴィンセントは棺桶から目覚めてクラウドたちと旅をするまでそば・うどんにありつける事はついぞなかった。
しかし神羅カンパニーが崩壊し、圧力をかけるものがなくなったウータイの料理人は外の世界へと飛び出し、今このエッジにもその店を構えてウータイの郷土料理であるそば・うどんを振る舞っている。
ウータイでしか味わえなかったあの味をユフィは勿論、ヴィンセントも密かに感動していた。

「アタシ天ぷらうどん!ヴィンセントは何にするの?」
「天ぷらそば」
「はいよー。おっちゃん、天ぷらうどんと天ぷらそば一つずつ宜しくねー!」

「あいよ!天ぷらうどん、天ぷらそば一丁!」

店主はオーダーを通すと早速天ぷらを揚げ始めた。
エビ、かぼちゃ、ちくわ、ナス、舞茸が次々とタネを纏って油の海に放り込まれていき、サクサクの衣へと姿を変えていく。
ジュワァァアアという油の揚がる音がなんとも耳に心地良い。

「ヴィンセントはそばとか初めて?」
「いや、タークス時代に2,3回くらいは食べた事がある」
「ふーん。何食べたの?」
「・・・確かたぬきそばとかけそばだな」
「じゃ、天ぷらそばは今回が初めて?」
「そうなるな」
「アタシうどん派だけど、でも天ぷらそば美味しいよ!ヴィンセントも絶対ファンになるよ!!」
「フッ、そうなるといいな」

ヴィンセントが天ぷらそばを食べようと思ったきっかけは三年前のこと。
まだ旅をしていた時にウータイに立ち寄り、亀道楽でご飯を食べる事になった。
その時にユフィが天ぷらうどんを美味しそうに食べているのが記憶に残っていて、いつか食べてみようと思っていたのだ。
その思いが現実になろうとする今、柄にもなく興奮する自分に内心苦笑する。
露の浮かぶお冷に手を伸ばして口に含む事によってそれをなんとか諌める。

Prrrrrrrr

「ん?おっちゃんだ。なんだろ」

ユフィの携帯にリーブから着信が来た。
通話ボタンを押して出てみる。

「もしもし?おっちゃん?うんうん・・・はぁっ!?マジで!?―――うん、今ヴィンセントといるからすぐ行くよ!」

ピッと電話を切るとユフィは真剣な顔つきでヴィンセントに向き合った。

「大変だよヴィンセント!『マフラー仮面』が出たって!」
「何?」

『マフラー仮面』とは、最近巷を騒がしているマフラーを駆使して盗みを働く男の事だ。
そのマフラー捌きたるや常人の域を逸脱しており、まさに達人と呼ぶべき動きである。
それにこのマフラー仮面、盗むのは主にマテリアで、この事からユフィの怒りを買っている。
過去にマテリア強奪事件を犯し、今もマテリアに執着しているユフィが言えた義理ではないが、もう盗みをしていないだけユフィの方がマシと言えるだろう。

「場所は?」
「ライトオーシャン第二ビル屋上だって!」
「今すぐ行くぞ」
「うん!おっちゃん、アタシたちちょっと席外すから待ってて!!」

ユフィはそれだけを言うとヴィンセントと共に現場に急行した。
全く、折角初の天ぷらそばを口にする機会が訪れたというのにこのタイミングで現れるとは。
変態マフラー仮面、許すまじ。
怒りの炎を心内に燃やしつつ、ヴィンセントはライトオーシャン第二ビルへと急いだ。
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