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□引っ越ししたい
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「クラウド、配達する荷物に上限はあるか?」

ピークを過ぎた午後のセブンスヘブン。
食後のデザートにコーヒーゼリーを食べていたヴィンセントが、ふと皿洗いの手伝いをしているクラウドに尋ねた。
クラウドは一瞬手を手を止めたが、すぐに皿洗いを再開してヴィンセントの質問に答える。

「バイクでも運べないほど大きくて重い物でなければ特にこれといった制限はないぞ」
「運んでもらう荷物の量が多い場合は?」
「往復分の料金がかかるな。だが、特別に仲間割引で引き受けるぞ」
「クラウドー、ウータイのアタシの親父のとこにお酒持ってって。仲間割引で宜しく」
「お前に限っては適用しない方向で」
「なんでだよ!」

ヴィンセントの隣でチョコレートパフェを食べていたユフィが抗議の声を上げる。
そんな二人のやり取りを聞いてクスクスと笑いながら、ティファがヴィンセントに質問をした。

「ヴィンセント、何か配達してほしい物があるの?」
「ああ、引っ越しを考えている」
「引っ越し?どこに引っ越すの?」
「WROの近い所にあるマンションだ」
「ヴィンセントが今住んでるアパートって超オンボロなんだよ。築100年くらいなんじゃないのってくらい」
「ユフィはヴィンセントのアパートに行った事あるんだ?」
「ま、前に一度だけね!随分前に!どんなとこに住んでるか気になって見に行ったくらいだよ!ね、ヴィンセント!?」

ティファの意味ありげな質問にユフィは慌てたように答えてヴィンセントに確認をした。
何故ユフィが慌てているのかも判らないままヴィンセントはとりあえずユフィの言う事に頷いた。

「ああ、そうだな」
「ホラね!見に行っただけだから!」
「フフフ、判ったわよ」

ティファはクスクスとまた笑ってクラウドが洗った皿を拭いて食器棚にしまっていく。
一方でユフィは顔を赤くしたまま不満顔でいる。
一体何なのだろうとヴィンセントが内心首を傾げていると、クラウドがヴィンセントに言った。

「引っ越しするんだったら知り合いの引っ越し業者を紹介するぞ。俺からの紹介だからきっと安くしてくれる筈だ」
「助かる。ダンボールは貸してくれるのか?」
「ああ、引っ越しする日時を言ってくれれば引っ越しの一週間前にダンボールを届けてくれる筈だ」
「判った。では早速、引っ越しの日時だが―――」

クラウドに詳細な日時を伝えてヴィンセントはその日を終えた。











そして引っ越し一週間前。
アパートの部屋で本を読みながらダンボールの到着を待っていたヴィンセント。
そこに、インターホンが鳴って訪問者を知らせる。
本を置いて立ち上がり、玄関のドアを開けると―――ユフィが立っていた。

「よっ!」
「・・・何だ?」
「今『なんだ、ユフィか』って思ったっしょ?」
「引っ越し屋が来たのかと思っていたからな」
「ちょっとは否定しろよ・・・まぁいいや。それよりヴィンセントにろーほー!
 この可愛くて健気なユフィちゃんがヴィンセントの引っ越しを手伝ってあげる!」
「手伝って貰うほど物はあまりないぞ」
「まーまー、そう言わずに」

「すいませーん!モグマークの引越社でーす!ダンボール持ってきました―!」

「あ、ダンボール来た」
「とりあえず受け取るぞ」

やって来た業者から畳まれた数箱のダンボールとガムテープを受け取り、ヴィンセントはとりあえずユフィを部屋の中に入れた。
部屋の中で受け取ったダンボールの枚数を数えながらユフィが尋ねる。

「ダンボールの枚数少なくない?これで足りるの?」
「言っただろう、物はあまりないと」
「にしたってさぁ。アンタ本読むから結構積んであるんじゃないの?」
「ダンボール一箱で足りる量だ」
「インテリアとか雑貨とかは?」
「ない」
「一つも?」
「ああ」
「何で?」
「持っていても虚しいだけだったからな・・・」

部屋を彩るインテリアや雑貨というものは人よりもすぐに早く壊れてしまう。
けれどインテリアや雑貨はその持ち主の人生をほんの少しの間だけ豊かにしてくれる。
しかしそれは寿命ある人間に限っての話しである。
不老不死だったヴィンセントにとっては人生の一瞬を豊かにする事など無意味であり、悲しい事でしかなかった。
だからインテリアや雑貨というものに興味を示す事はなかったのだ。
ユフィ曰くのこの超オンボロアパートに住んでいたのだって似たような理由だ。
上等な家に住んでいても不老不死である自分がいつまでも住み続けていては気味悪がられてしまうし、その関係で長く住み続ける事も適わない。
だから人気が少なく且つ愛着が湧かなそうなアパートを選んで住んでいたのだ。
いつでも立ち去れるように、少し長く居着いても気味悪がられないように・・・。

暗くなってしまった雰囲気を、しかしユフィは持ち前の明るさと前向きさで風の如く吹き飛ばす。

「あーもう暗い暗い!今はもう不老不死じゃないんだから明るくいこう!そりゃ聞いちゃったアタシも悪かったけどさ・・・」
「いや、お前が謝る必要はない。私もすまなかった」
「とにかくさ、荷物はまだまとめなくていいの?」
「ああ、3日くらいでどうにかなる」
「じゃあその時になったらまた手伝いにくるよ」
「いいのか?」
「いいっていいって!ヴィンセントさえ良ければ引っ越し当日も手伝うけどどう?引っ越しそば作るよ!」
「お前がそうしたいなら好きにすると良い」
「やった!」

自分なんかの引っ越しの手伝いを申し出て、承諾を得たら喜ぶだなんてユフィは変わっていると思う。
でも、同時に嬉しかった。
どうして嬉しいのかは見当もつかないが、少なくとも気にかけてくれているという事実が嬉しいのは分かる。
ヴィンセントは引っ越しの準備と当日が少し楽しみになった。
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