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□のんびりとした一日
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「やぁ〜良い天気だな〜」

澄み渡る空の下、鳥の可愛らしい鳴き声を聞きながらジャックはのんびりと土手を散歩していた。
今日はオフの日でやる事も特にない。
どこでどんな風に過ごそうか。
喫茶店でのんびりデザートを食べてもいいし、誰かと一緒に遊ぶでもいい。
計画のない遊びがジャックは好きだった。
風の向くまま気の向くまま、のんびり歩いて偶然出会った面白い何かにワクワクするのだ。

「川、綺麗だな〜」

淀みなく絶えず流れて行く川に視線を投げてぼんやりと呟く。
面白い何かに遭遇するのもいいが、川を眺めながら昼寝をするのも悪くない。
それに一度やってみたかったシチュエーションだ。

「お昼寝でもしますか〜」

独り言ちてジャックは土手から降りて行こうとした。
すると―――

「あれ〜?レノとアーヴァインじゃん」
「うん?よっ、ジャック」
「よぉ」

なだらかな斜面にアーヴァインとレノが寝そべっていた。
あまり見ない組み合わせに驚きながらジャックは人一人分の間隔を空けてアーヴァインの横に寝そべった。

「アーヴァインとレノって珍しい組み合わせだね〜。遊ぶ約束でもしてたの〜?」
「そんな訳ないだろ〜。たまたまそこで会ったんだよ。偶然にも同じ昼寝目的でね」
「そーいうこった。お前こそこんな所で何をやってるんだぞ、と」
「ん〜?暇だからブラブラしてた〜」
「そーかよ。俺はこれから寝るから静かにしてろよ、と」
「はいは〜い」
「じゃ、僕も寝ようかな」

レノはゴロンとアーヴァインたちに背中を向け、アーヴァインはテンガロンハットを自分の顔の上に乗せるとそのまま寝入ってしまった。
ジャックは腕を組んで枕を作るとそこに頭を乗せて眼前に広がる大きな青空を眺めた。
鳥が楽しそうに泳ぐ雲一つない空。
そんな空に見下ろされながら享受する昼寝のなんて贅沢な事か。
いつもは家だったりWPO本部のどっかの部屋で居眠りをしているが、これからは時間と天気が良ければここで昼寝をするとしよう。
そう決めて、川の水が流れる心地良い音をBGMに目を閉じたその時―――

ヴヴーヴヴーヴヴー

レノのポケットからスマホのバイブ音が鳴り響いた。
それに反応してジャックとアーヴァインは僅かに顔を上げてレノの方に視線をやり、レノは舌打ちをしながら「誰だよ」と悪態を吐いてスマホを取り出した。
そしてディスプレイに表示された名前を見て嫌そうな表情を浮かべて着信に出る。

「なんだよサイファー、俺は眠いんだぞ、と・・・へー・・・じゃ、見学しに行くわ。社長のデュエルの腕見てみたいしな、と」

レノはからかい口調で通話を切ると起き上がった。

「何か面白そうな事が起きそうな感じ〜?」
「まーな。社長がサイファーを使ってデュエルするんだとよ、と」
「うん、意味分かんない」
「俺もな。だから何がどーなんのか見てくるぞ、と」
「後でレポート宜しく〜」
「覚えてたらな、と」

スーツに付いた草葉やゴミを払い落してからジャックに適当な返事をするとレノはそのまま遠くへ行ってしまった。
黒のスーツが映える赤毛をいつまでも見送っていたジャックとアーヴァインだったが、完全に見えなくなると互いに顔を見合わせて噴き出す。

「ルーファウス、デュエルでサイファー使うって言ってたけどどんな風に使うんだろうね〜」
「さぁ?カードのモンスターとして使うんじゃない?戦士族として」
「『特攻風紀委員・サイファー』とか?」
「『特攻』付けたらサイファーが怒るよ〜。融合召喚したら『魔女の騎士・サイファー』だね」
「いいねいいね〜。アーヴァインってカードゲーム好きなの〜?」
「まぁそれなりかな〜。ジャックは?」
「僕は好きだよ〜。エースの遊び相手としてよくやってるし」
「へ〜、エースってやっぱりカードゲームやるんだ?」
「やるよ〜。そんでやっぱ強い」
「へ〜、やっぱりそうなんだ〜」
「あ〜あ、カードの話してたら欲しくなっちゃった。コンビニ行ってグミ買ってこようかな〜」
「グミ?」
「グミのオマケでカードがついてくるお菓子あるじゃん?僕あれ集めてるんだよね〜」
「あーあれね!へー、集めてるんだ?」
「もう少しでコンプリートしそう」
「凄いじゃん!今度見せてよ!」
「いいよ〜」
「ついでに僕も一緒にコンビニ行っていい?なんか飲みたくなっちゃってさ〜」
「勿論!」

ジャックは快く頷き、アーヴァインは「よっと」と声を出して上体を起こしてテンガロンハットを被った。
そうして男二人並んでのんびりと土手を歩いて行く。
今この二人を急かすものは何もない。
時も風も雲も鳥も全てがゆっくりと流れて行く。
いくのだが・・・

「げっ」
「ん〜?・・・うわっ」

二人が向かう先の道でセフィロスオーナーがこちらに向かって歩いて来ていた。
スーツ姿ではなく、いつもの戦闘服を着て。
つまり今日はオフの日。
嫌な奴と鉢合わせてしまったと思い、二人は道を開けるかの如く土手から外れて川沿いを歩こうと進路変更しようとする。
だが一瞬だけ、空気が押し出されるように流れたのをジャックは見逃さなかった。

「っ!!」

ガキィィイン!という金属と金属が激しくぶつかり合う音が耳をつんざく。
二人の戦士がぶつかり合った時の風圧に押されてアーヴァインはなだらかな斜面を転げ落ちそうになった。

「わっとっとっ!!じゃ、ジャック大丈夫〜!?」
「どー見てもダメかな〜」

両手で刀を握るジャックが片手で正宗を握るセフィロスオーナーにギリギリと押される。
苦笑いを浮かべて額にうっすらと冷や汗をかくジャックに対してセフィロスオーナーは眉一つ動かさず鋭い瞳でジャックを射抜く。

「あの〜、セフィロスオーナー?僕何かした・・・?」
「・・・」
「土下座でも何でもするから許して?」
「・・・『何でもする』んだな?」
「嘘!何でもしない!出来る事だけしかやらない!」

ジャックが慌てて首を横に振るがお構いなしにセフィロスオーナーは正宗を操ってあらゆる角度からジャック目掛けて刃を振り下ろす。
それを寸での所で受け止めて必死に弾き返すジャック。
一見、ジャックが一方的にやられているように見えるがその実、ジャックはセフィロスオーナーと互角に渡り合えているのをアーヴァインは知る。
セフィロスオーナーの目にも止まらぬ刀捌きを受け止められているのはクラウドしか見た事がなかったのだが、ジャックもクラウド程ではないにしろ、ギリギリの所で何とか受け止めているのだ。
とはいえ、ジャックは本当にギリギリだ。
いつも浮かべているニコニコの笑顔も今ではかなり引き攣っている。
何とかして止めに入りたいが、タイミングとセフィロスオーナーが放つオーラがそれを許さず、アーヴァインは動けずにいた。

「あのさぁ、セフィロスオーナー。もしかして・・・手加減してる?」
「何故そう思う?」
「普段のセフィロスオーナーなら一瞬で僕を切り捨てられると思うんだよね〜。なのになんか手を抜かれてる気がしてさ〜」
「だとしたらどうする?」
「ん〜、痛いのは嫌だけど手加減されるのも嫌かな〜。やっぱ舐められてるとカッコつかないじゃん?」
「ならば『素』を曝け出すのだな」
「これがボクの素だよ?」
「それで通ると思っているのなら愚かな話だ」
「・・・」

ほんの一瞬だけ、ジャックの表情から笑顔が消え失せ、感情を灯していない鋭い視線がセフィロスオーナーとぶつかった。
でもそれは本当に一瞬だけ。
アーヴァインが瞬きをして一瞬だけ瞼を閉じていたその瞬間だけ笑顔が消え失せており、次にアーヴァインが瞼を開いた時にはいつもの笑顔に戻っていた。
しかし瞬きをせず見逃さないでいたセフィロスオーナーにはしっかり見られてしまい、ジャックは内心で舌打ちを漏らす。

「・・・興覚めだ」

先程とは打って変わって、セフィロスオーナーは興味なさそうに吐き捨てると静かに正宗を下ろし、まるで何事もなかったかのように静かにジャックの横を通り過ぎて行った。
風を引き連れて歩く彼の気配が遠ざかるまでジャックは動けずにいて、しばらくして漸く疲れたように大きく長く息を吐いて全身の力を抜いた。

「はぁ〜ヤバかった〜!」
「大丈夫?ジャック」
「何とか生きてる〜」
「マジで心臓に悪いよね〜セフィロスオーナーの襲撃」
「ホントだよ〜。や〜な感じだし・・・僕、改めてあの人苦手だな・・・」

ポツリと呟くジャックの表情には苦笑いが浮かんでいたが、声にはそれが伴っておらず、ただ無機質だった。

「得意な人なんてそれこそジェネシスとアンジールって人とエルお姉ちゃんくらいなものだよ〜。最近だとシンクもそうみたいだけど」
「シンクはエルオーネが一緒なら平気って言ってたからまだそっちの部類に入るには早いかな〜」

あはは、と笑ってジャックは意図的に会話を流していく。
幸い、アーヴァインが何かに気付いた様子はない。
勿論気付かれた所で別にどうという事はないのだが、やはりこういうのに気付かれるのは嫌だしカッコ悪い。
知っているのは勘の鋭いセブンくらいでいい。
とはいえ、あろうことかセフィロスオーナーにも知られてしまった・・・いや、戦士の本能として元々知っていた可能性もあるだろうが。
知られるならまだしも、一瞬だけ自分が心がけていたものを剥がされたのが非常に悔しく、腹の底を重く暗いものが這いずる感じがして良い心地があまりしない。
こんな時はさっさと気分転換をするに限る。
ジャックは体を延ばすと気分と共に話を切り替えた。

「いや〜緊張したらお腹減っちゃった〜。早くコンビニ行こ〜」
「そーだね〜」

アーヴァインとの会話や散歩に没頭して嫌な事を忘れて行く。
そうしてジャックは『いつものジャック』に戻っていくのであった。
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