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□お買い物
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とある日の朝、ティファは駅へと向かっていた。
本日クリスタルヘブンは定休日。
そして風の気持ち良い快晴。
まさに絶好のお買い物日和である。
前々から雑誌でチェックしていた最新の調理器具を買いに行くに適した日だ。

(アレとアレと・・・それからあぁいうのないかなぁ)

頭の中でチェックした器具と、あったらいいな、という小物を浮かべて楽しい気持ちになる。
買い物の醍醐味というのはこの買いに行くまでの遠足のようなワクワク感と目的の物に出会った時の感動だ。
もしもなかった場合は美味しい物でも買って自分を慰めるのみ。
けれども思わぬ出会いがあったらそれで相殺、いやお釣りが来るだろう。
そんな出会いも求めて軽い足取りでティファが駅に向かうと―――

「あれ?ナイン?」
「んぉ?ティファじゃねぇかコラァ」

駅前でばったりナインと出くわした。
彼らしいワイルドな普段着を着ており、これから任務があるとかそういう感じではなさそうだった。

「ナイン、今日はお仕事ないの?」
「おうよ。でもよぉ、サイファーもルーファウスも他の奴らも予定入ってて暇してたんだよ。ティファは何してんだオイ?」
「私はこれから隣町のモールにお買い物に行く所なの」
「へぇ、俺も一緒に行っていいか?」
「別にいいけど暇じゃないかしら?私、調理器具とかをメインに見に行くだけだから」
「それでもいいぜぇ。何となく面白そうだからなぁオイ!」
「じゃあ行こっか」
「おうよ!」

早くも思わぬ出会い。
どんなお買い物旅になるかと内心ワクワクしながらティファはナインと共に改札口を通った。











「おぉ、すげーなオイ!おもしれー物が沢山あるぜコラァ!」
「そうね、調理器具のコーナーってちょっとしたテーマパーク感があるわよね」

到着したモールの調理器具コーナーでナインがしゃぎなら周りを見回す。
普段はあまりこういった調理関係のコーナーには立ち寄らないのか、あれは何だこれは何だと色々な物を手に取ってはその使用用途を探っている。
その言動が可愛らしくて、小さい子供を見るような弟を見ているような感覚にティファはなった。

「見ろよティファ、卵割り機があるぜ!」
「え?なんでそんなに興奮してるの?」
「サザ◯さんで波平が買ってきて不評だったあの伝説の卵割り機だぜコラァ!」
「ああ、サザ◯さんネタね。これさえあれば楽に卵が割れるなんて言って買ってきたけど洗う手間とかセットする手間を考えたらあまり良い物じゃないわよね」
「全くだぜ。つい最近なんか醤油とかソースとか塩とかの調味料が全部一つの容器に纏まったやつとか買ってきたんだぜコラァ」
「やけに詳しいわね・・・」
「毎週ちび◯こちゃんからサザ◯さんまで兄妹全員で見てるんだぜコラァ」
「フフフッ、みんなで日曜夕方のアニメを見てるなんて仲が良いのね」
「まぁな!ガキの頃から見てるからよぉ、今じゃ見なきゃ日曜日を終われねぇ体になっちまってんだよみんな」
「サザ◯さん症候群の真逆をいってるじゃない」

ティファは吹き出してクスクスと笑い声を漏らす。
ナインたち12人が揃ってテレビの前に並び、ちび◯こちゃんの始まりからサザ◯さんの終わりまでしっかり観ているのを想像すると可愛くてたまらない。

「ちなみに任務とか用事で見れなかった時は誰かが教えてやったりビデオで録画してるんだぜ。
 これがトレイに当たったら悪夢だぜコラァ」
「カツ◯の心情を細かく説明するの?」
「それだけじゃねーぞ、最近目立ってきた早◯さんの狙いや堀◯くんの思考まで細かく考察しながら話してくるんだぜコラァ」
「もうやだナイン、笑わせないでよ」

肩を震わせてティファは笑いを堪える。
カツ◯の心情や他のキャラの考察を細かく語るトレイを少し聞いてみたい気もする。
でもかなり長くなりそうなのでやっぱり遠慮しておこう。
それよりも、だ。

「ちょっと探し物を手伝って欲しいんだけどいい?」
「おう、いいぜ。何探すんだオイ?」
「シリコンで出来たヘラよ」
「は?シリ?スマホのあれかオイ?」
「そのシリじゃなくてシリコンよ。こういうゴムみたいな材質の物の事よ」

説明しながらティファは手近にあったシリコンの菜箸を取ってナインに渡してその肌触りを教えた。
それを受けてナインは「あぁこれか」と触る事で気付いて頷く。

「普通のヘラじゃダメなのか?」
「普通のヘラだとチャーハンとか作った時にヘラにご飯粒がいっぱいくっついちゃうのよ。
 ご飯粒は潰れてくっついちゃって洗い落とすのが大変なんだけどシリコンならあんまりくっつかないって聞いたの」
「へぇ。クイーンやセブンがよく苦労してたから今度教えてみっか」
「間違って『おシリ』なんて言っちゃダメよ?」
「おうよ!ちゃんと『おシリコン』って言うからよぉ!」
「『お』はいらないわよ!」

笑いながらティファはナインのボケにツッコミを入れる。
まさかそう来るとは。
実際に二人の前でナインがそんな事を言おうものならセブンは呆れたように笑い、クイーンは「おシリコンではなくシリコンでは?」と真面目なツッコミを入れるだろう。
そんな場面を想像してティファは一層笑いがこみ上げてきそうになった。

「さってと、おシリコンのヘラは・・・っと、これかオイ?」
「あ、それよ!」

それらしい材質のヘラを見つけたナインが黒と白のシリコンのヘラを両手に縦向きに持ってティファに見せると、ティファは歩み寄ってそれを眺めた。

「ヘラっつかお玉に近くねーか?」
「そうね、浅いけど十分に料理を掬えそうな感じ・・・」

小さく呟きながら真剣に品定めをするティファにナインは料理人魂を見た。
なるほど、本当に料理が好きなようだ。

(そーいやマザーは料理めちゃくちゃウメーけどこういうの拘ったりしてんのかな?)

アレシアは仕事が忙しくて外出する事が殆どなく、こういう買い物に参加した事もあまりない。
もしも時間が出来た時にこういう所に連れてったらアレシアもこんな風に真剣に選んだりするのだろうか?
それとも自分たちに色んな器具の使い方を教えてくれるのだろうか?

(うしっ!今度マザーと一緒に来てみっか!)

アレシアと買い物となると他のみんなも黙っておらず、全員で行く事なるだろう。
そうなると自分たち男共は荷物持ちの運命を辿る事になる訳だが、アレシアと買い物に行く為の代償と思えばなんて事はない。
それにキングやエースたちもガッツリ巻き込めばいいのだ。
逃してなんかやらない。
そんな悪戯小僧みたいな考えを巡らせているナインを他所にティファは決まったのか「うん」と頷いてナインから黒と白のシリコンを受け取ってカゴに入れた。

「決めたわ、この二つを買うわ」
「お?なんで二つなんだ?一つで十分なんじゃねーのかオイ?」
「あ、えっと・・・ご飯用とお菓子作り用に使い分ける為よ!
 ほら、綺麗に洗ってもご飯作るのに使った物って思っちゃって気になるじゃない?だからその為よ!」
「お?おぉ・・・」

首を傾げてハテナマークを浮かべるナインにティファは笑顔を浮かべて一生懸命に誤魔化す。
自分が使うのは勿論、秘密裏に行ってる料理教室でリノアとサイスが使う用だなんて間違っても言えない。
けれどもナインは深く追求して来る事なく納得してくれたらしく、話を切り替えて来た。

「他には何探すんだコラァ?」
「えーっと、次はお砂糖とか入れる瓶ね。こっちよ」
「おう。それとティファ、カゴ貸せよ。持ってやるよからよぉ」
「そんな、いいわよ!荷物持ちしてもらおうと来てもらった訳じゃないし」
「遠慮すんなって。重い物を持ってやるのは男の役目だぜコラァ」

ニヤリと笑いながらナインはやや強引にティファからカゴを取り上げて持つ。
ティファは申し訳なさそうに眉を八の字に寄せながらも「じゃぁ、お願いね?」と頼んで来たので気前良く頷く。
ちなみに「重い物を持つのは男の役目」というセリフはエースがデュースによく言うセリフだ。
ティファと同じように自分で荷物を持とうとするデュースにエースが「僕が持つよ。重い物を持つのは男の役目だ」とカッコつけて言うのである。
前々から自分も言ってみたかったセリフを言えてナインは大変満足している。
さて、別の売り場へ移動した二人は可愛らしいデザインのガラスの容器や陶器が置かれているコーナーの前へとやってきた。
それらを一つ一つ手に取りながらティファが言う。

「コンソメを入れてた容器を割っちゃったの。それとお砂糖を入れてる容器も古くなっちゃって」
「ふぅん、それを買いに来たんだなコラァ?」
「そうよ。それでこのブランドメーカーのガラスの容器が可愛いから見に来たの」
「んで、気に入ったのはあるかオイ?」
「ええ、バッチリ!」

ウィンクしながらティファはリンゴの木が描かれた優しい絵柄の小さな陶器をカゴに入れた。
それに続いて繊細な蔦の装飾が施されたガラスの容器も入れる。
恐らく小さい方がコンソメを入れる容器でカラスの容器が砂糖を入れる容器なのだろう。
見た目のデザインからしてみてもキッチンに置いたら十分綺麗な眺めになるものばかりだ。
これはキッチンによく立つクイーンたちに教えたらきっと喜んで早速買いに来たりするだろう。
そんなクイーンたちの為にもメーカー名を覚えておかねば。

(メーカーは・・・ロリヅル独房だな!)

正しくは『折り鶴工房』である。
しかしウータイ語をあまり勉強していないナインには仕方のない事なのかもしれない。

「後はもう大丈夫かな。お会計して来るから待ってて」
「おう」

ナインからカゴを受け取るとティファはレジに並んで行った。
その間にナインは暇潰しに他の調理器具を見て回る。
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