古書W

□悩める男たち
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出張先のビジネスホテル。
ヴィンセントの部屋にて同僚のアーヴァインとキングは酒とつまみを持ち寄って談笑をしていた。
そんな中、アーヴァインが深刻な溜息を吐く。

「はぁ〜ぁ・・・あのさぁ、ぶっちゃけた話、朝出掛ける時どうしてる?」
「どうしてるとは?」
「行ってきますのキスだよ〜。ヴィンセントしてるの?」
「まぁ・・・な」
「いいな〜!キングは?」
「いや、してないな」
「そうなんだ〜。じゃあ僕と仲間だね〜!」
「見送りしてくれるだけで十分だからな」
「Oh、熟年夫婦・・・」
「お前はどうなんだ?アーヴァイン」

キングに聞かれてアーヴァインはこれ見よがしにまた大きく溜息を吐くとのろのろと首を横に振って「してないよ〜・・・」と答えた。

「だったらすればいいだろ」
「そんな簡単な話じゃないんだよ〜。僕の方からしようとしたら緊張するしセフィは鈍感だし。そこがまた可愛いんだけどね〜」
「ならばキングを見習って見送ってもらうだけで満足するしかないだろうな」
「やだよ〜。ヴィンセントはどうやって行ってきますのキスしてるの〜?」
「・・・ユフィの方から仕掛けて来る」
「あ〜なるほど〜。ユフィ積極的なんだ〜」
「悪戯半分な所があるが・・・これが中々苦労する・・・」
「え?何で〜?」
「・・・自分を抑えるのが大変なんだ」
「あっ・・・」

細く息を吐くヴィンセントにアーヴァインは全てを察する。
キングはスルメイカを食べながら毎朝自分を抑えるのに苦心してるヴィンセントの姿を想像して一種の同情心を覚えた。
時々疲れたような、それでいてどこか不満のようなやり場のない気持ちを抱えた表情をしていたのはその為か、と。

「積極的も考え物だな」
「ああ、本当に・・・」
「それで?暴走する時はあるのか?」
「何サラッととんでもない事聞こうとしてるのキング」
「私が遅くに出社した時はそういう事もあったと解釈してくれてもいい」
「何真面目に答えてんのヴィンセント」
「困ってる割には満更でもなさそうだがな」
「それだけ二人はラブラブって事でしょ〜。あーあ、惚気られちゃった〜」
「だがセルフィが覚醒したらお前も他人事ではなくなると思うが」
「つまり?」
「お前もよく知っての通りセルフィは鈍感で天然だ。それが今のユフィのようになったらどうなると思う?」
「無意識に且つよく分かりもせずに煽ってくる訳か・・・」
「ちょちょちょちょちょちょっと待って!待って待って待って〜〜〜!!!!」

バフンバフンバフンとベッドに顔を打ち付けてアーヴァインは身悶える。
大方キングの言ったシチュエーションのセルフィをイメージして興奮してしまったのだろう。
まだまだ青いなと思いながらヴィンセントとキングはビールを煽る。
と、そこでハッと我に返ったアーヴァインがバッとヴィンセントの方を振り返ってとんでもない事を聞き出した。

「暴走してるって事は・・・え?ヴィンセントとユフィってやる事は現在進行形でやってる感じ?」
「むしろお前は何もしてないのか?」
「うん・・・新婚初夜以来、なんか気恥ずかしくて・・・」
「お前が女子の気持ちになってどうする」
「そういうキングはどうなのさ!?」
「俺は新婚初夜から指で数えられる程度だな」
「僕と変わらないじゃんか!」
「俺もセブンも愛を超えた先に到達した気分でいる」
「熟年夫婦が過ぎるんだよ二人は〜!!」
「とにかく頑張ってお前の方から動いたらどうだ?でなければずっとこのままだぞ」
「うん・・・受け身なのもカッコ悪いもんね・・・」
「よし、景気づけに一杯飲め」
「うぅ、ありがと〜キング」

キングに注いでもらったビールをゴクッと勢い良く飲み干してアーヴァインは強く宣言する。

「よしっ!僕、出張から帰ったらセフィに行ってきますのキスする!絶対に!」
「帰って行ってきますのキスをするって変な流れだな」
「そこ!細かいツッコミはしない!」

男たちの夜は明けていくのであった。
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