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□携帯を買い替えたい
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某月某日。
ヴィンセントの携帯が終わりを迎えた。
彼の携帯は前日まで充電器に繋ぎ続ける事でその機能を果たしていたが、本日とうとう充電器に繋いでもその光を灯す事はなかった。

「・・・参ったな」

不老不死になる前までならいざ知らず、現在はWROに働いている事もあって携帯電話は重要な連絡手段となっている。
現代は携帯電話が重要なインフラであり人々は依存しているというニュースなどを聞くが、まさか自分もそこに該当する事になろうとは。

「・・・仕方あるまい」

ヴィンセントは役目を終えて静かな眠りに就いた携帯を手に部屋を出た。












そうしてヴィンセントが訪れたのはセブンスヘブン。
とりあえずクラウドかティファ辺りならすぐに相談に乗ってくれるだろうと当たりをつけて来たのだが、そこにはユフィもいた。
状況から察するにデザートを食べながらティファとお喋りをしていたのだろう。
ユフィの手にはコーヒー牛乳状態となっているコーヒーゼリーが盛られている器が握られていた。

「あ、ヴィンセント。いらっしゃい」
「ヴィンセントじゃん!どーしたの?」
「・・・携帯が動かなくなった」
「はぁ?ちょっと見せてみ?」

スプーンを咥えながら行儀悪く片手を出してくるユフィに携帯を差し出して見てもらう。
ユフィが電源ボタンを長押しするが、携帯はうんともすんとも反応を示さなかった。

「アンタの事だから電源切ってるんじゃないかって思ったけどそーでもないみたいだね。充電は?」
「毎日しないと動かない程だった」
「ふーん。じゃ、こりゃ完全にバッテリーが逝っちゃった感じだね」
「バッテリーを交換すれば元通り動くのか?」
「どーかな〜。ヴィンセントの携帯古いからもう無理かも」

ヴィンセントの携帯を返すとユフィはコーヒー(牛乳)ゼリーの最後の一口を頬張った。
一方でヴィンセントはティファに出してもらったブラックコーヒーを口に含みながら携帯を見つめた。
この携帯が機能しなくなるという事は新しい携帯を買わなかければいけないという事か。
・・・面倒だ。

「今アンタの考えてる事当ててあげる。携帯買い換えるの面倒くさいって思ってるでしょ?」
「事実面倒だろう?」
「でもそのまんまでいる訳にもいかないっしょ?仕事とかアタシからの電話どーすんのさ?」
「仕事はともかくお前からの電話は別に不自由はしない」
「なんだとー!?」

二人のやり取りに皿を拭いていたティファはクスクスと笑いを漏らす。

「そんなこと言うなら携帯の乗り換え手伝ってやらないぞ!?」
「冗談だ。手伝ってくれ」
「あーあ、どーしよっかなー?」
「はぁ・・・ティファ、ユフィの好きな物を出してやってくれ」
「フフ、はいはい」

ティファは苦笑交じりに答えると早速パフェ作りに着手した。
ユフィ特注パフェの作り方はもう慣れたもので、あっという間にユフィの前に完成したパフェを出してみせた。
大好物しかない盛り合わせのパフェが出されて途端にユフィは機嫌を良くする。

「エヘッ、サンキュー!しょーがないから携帯ショップに付き合ってやるよ!」

コロッと機嫌を直したユフィになんだか上手くやられた気がしないでもないが、この際考えるまい。
ともあれ、ヴィンセントはユフィと共に携帯ショップに行くのであった。












そんな訳でエッジの中心、新生神羅ビル近く。
ビルは既に20階まで建っており、ルーファウスが着々と新しい基礎を築き、力を着けている事が伺える。
巨大なビルが再び拝めるのはそう遠くはないだろう。
そんな事よりも携帯だ。
ユフィがパーカーのポケットに両手を突っ込みながらヴィンセントに尋ねる。

「どんな携帯がいいの?」
「・・・使い易いのなら何でもいい」
「んじゃ、何かあってもアタシが面倒見れるようにマイフォンにしとこっか」
「マイフォンとは?」
「アタシが持ってるこれだよ」

そう言ってユフィはポケットから自分のスマートフォンを取り出してヴィンセントに見せた。
背面が美しいアクアブルーで、それを可愛らしいデザインが施されたクリアケースが覆っている。
大きさも掌サイズの丁度良い大きさで持ちやすそうである。

「機械に弱いヴィンセントには難しいかもしれないけど、慣れればどーってことないって」
「・・・すぐに使い方を覚える」

機械に弱いのは認めるが、それでもなんだか悔しくて強がりを言う。
ユフィに「ホントに覚えられるのかよ〜」と笑われたが、この際無視した。
そうこうしている内に電話屋に到着し、二人は中に入った。
様々なタイプの電話が店内に並ぶ中、ユフィは真っ直ぐマイフォンが並べられている棚にヴィンセントを導く。

「ホラ、ここがマイフォンだよ」
「・・・大きさが違うな」

ユフィの持っていたマイフォンと同じ大きさの物もあれば、全く違う大きさの物が並べられていることにヴィンセントは戸惑いを隠せなかった。
明らかに掌に収まらないであろう物もあれば、本と同じサイズの物もあるではないか。
携帯経験値の低いヴィンセントに、しかしユフィは丁寧に説明をしてくれた。

「これとこれは最近出来た新型。新型はちょっとサイズか大きいけどアタシが持ってるやつと比べて新機能とかあるんだよ」
「例えば?」
「防水加工とか」
「お前の持ってる物は施されてないのか?」
「ないよ」
「そうか・・・では、こちらは?」
「こっちはマイパッドって言って、タブレット端末だよ。ある意味自宅用みたいなもんかな。電話機能がないんだよ」
「電話機能がなかったら何に使えるんだ?」
「電子書籍や文字が読み易いとかお絵描きがやり易いとか色々。最近だとレストランにも置かれてるかな」
「レストランでか?」
「そ。店員さん呼ばなくてもタブレットで料理を注文するんだよ。今度それがある店に連れてってやるよ!」
「・・・頼むとしよう」

機械に疎いヴィンセントだが、タブレット端末とやらを使って料理が注文出来るというのには興味があった。
自分が世間から目を離している間に技術はかなり発展していたようだ。
機械に弱いなんて言ってられなくなるかもしれないと思うと苦笑が漏れる。

「ところで、これはどこから操作するんだ?」
「え?こうやって―――」

ユフィは展示品のマイフォンの画面を適当にタッチしたりスワイプしたりして操作の仕方をヴィンセントに見せた。
指で触った通りに動いたり画面が変わる携帯にヴィンセントは珍しく驚いてみせる。

「指で・・・操作するのか?」
「今時の携帯なんてほとんどそーだよ。感圧なんちゃらって言うのを採用してて、それでこうやって画面を動かしたりアプリを開いたり出来るんだよ」
「あぷり・・・?」

ある意味で聞きなれない言葉にヴィンセントが首を傾げると、ユフィは音譜マークが描かれた四角を指差して説明を始めた。

「これ、この四角いやつ。これを押すといろんなシステムが起動するんだよ。例えばこの音譜マークの付いたやつを押すとアプリが開いて音楽が聴けるようになるんだよ」

そう言ってユフィは音譜マークをタッチしてアプリを開いて見せた。
開かれたアプリからは色んな音楽がカテゴリ分けされており、その内の一つをタッチすると色んな題名の音楽がズラリと画面に並んだ。
その光景にヴィンセントは半ば圧倒されながらも関心する。

「ほう、これは凄いな」
「他にもこういうお天気アプリとか電卓アプリもあるし、このストアから色んなアプリがダウンロード出来るんだよ。
 ただし、ダウンロード出来るアプリには有料のものがあるからそれには注意だよ」
「・・・少し難しそうだな」
「慣れればどーってことないって!それにアタシが手取り足取りレクチャーしてあげるしさ!」
「無料で頼む」
「うぐっ、そこはしっかりしてんな〜。まーいいや。大出血サービスで無料でレクチャーしてやるよ!」
「宜しく頼む」

交渉成立。
先手を打って正解だったとヴィンセントは内心ホッとするのであった。

「そんでどーすんの?どれにすんの?」
「お前が使ってるのと同じ奴にする。新型とやらでお前が対応出来ない物があると困る」
「そうなっても調べてあげるけどね。ま、いいや。色はどーすんの?」
「何色があるんだ?」
「金・銀・ピンク・水色・黄緑・黒、それからブラッディレッド」
「最後だけ妙に格好つけてるな」
「だってそういう名前のカラーリングなんだもん。やっぱここは自分のカラーを意識してブラッディレッドいっとく?」
「黒でいい」
「ちぇー、つまんないの」

つまらなそうにするユフィを無視してヴィンセントは早速店員を呼んでマイフォンの黒を購入する事にした。
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