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□のんびりとした一日
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「今日はついてないな〜。セフィロスオーナーに襲撃されるし、カードは被っちゃうし」
「そんな時もあるって〜」

コンビニでグミやお菓子を買ったジャックとアーヴァインはついでにアイスを買ってコンビニの表に置いてあるベンチに座って食べていた。
アーヴァインがチョコのアイスバーでジャックはバニラとチョコのマーブルソフトクリームだ。
ジャックはソフトクリームをゆっくり舐めながら被ったオマケのカードを見て溜息を吐く。

「ま、いいや。被ったカードホルダーに入れとこっと。それにしてもアイスが美味しい季節になりましたな〜」
「だね〜。この間もこうやってキングとヴィンセントと一緒にベンチに座って食べてたよ〜」
「へ〜。ヴィンセントもアイス食べるの?」
「あ、いやヴィンセントはアイスコーヒーだったかな。僕とキングはカップアイス」
「ふ〜ん。キングはどう?二人と仲良い?」
「勿論だよ〜!キングって面白いよね〜。意外に冗談とかよく言うんだね〜」
「そ〜だよ〜。それに甘党だし」
「あ、それも意外だった。ブラックコーヒー飲めるイメージあったけどミルクとか砂糖沢山入れたりさ」
「キングはブラックも飲めるよ〜。多分その時は甘い方を飲みたい気分だったんだと思う」
「なるほどね〜」
「や〜キングも仲良くやってるみたいで安心したよ〜。他のみんなも結構楽しそうにしてるみたいだしさ〜」
「ジャックも仲良くしてるでしょ〜?」
「あはは、そうだね〜。今こうやってアーヴァインと仲良くやってるね〜」
「この町は慣れた?」
「もう馴染んでるよ〜。美味しい惣菜屋さんやケーキ屋さんも見つけたしさ〜」
「そっかそっか。なら良かったよ」

そこで一旦会話は途切れて二人は同時にアイスを齧る。
アーヴァインの口の中でアイスが溶けていき、ジャックの口の中でソフトクリームのコーンが砕かれていく。

「あ、そーだ。僕帰りにお豆腐買って帰らなきゃ」
「買い出し当番?」
「そんなとこ〜。今日の味噌汁はお豆腐なんだってさ〜」
「ふ〜ん。味噌汁か〜。そーいえばしばらく味噌汁作ってないな〜」
「一人暮らしすると作らないもん?」
「面倒だからね〜。別に飲まなきゃ死ぬって訳じゃないし。ジャックは一人暮らしとかしないの〜?」
「いまんとこ予定はないかな〜。この歳でこんな事言うのもなんだけど、もっとマザーや兄弟のみんなと一緒にいたんだよね〜。いつかはみんな結婚とかしてバラバラになっちゃうかもだけど、それまではずっと一緒にいたいな〜って。それこそ最後に出て行くのが僕一人になるまでさ〜」
「へ〜。ジャックはエースたちが大好きなんだね〜」
「真正面から言われるとなんだか照れるな〜」
「でも良い事だと思うよ〜。沢山思い出作ってさ、いつかバラバラにならなきゃいけなくなった時に悲しくなってもその思い出が慰めてくれるしさ」
「アーヴァインからクサいセリフ入りました〜」
「からかうなよ〜。折角慰めてあげてるのに」
「あはは、ごめんごめん。でもホント、ずっとこのままだったらいいのにな〜」

いつもの飄々とした表情で空を見上げるジャックの顔に太陽の光が差し込む。
その横顔は兄妹と育ての母親への愛情に満ちていたが、どこか寂しさも称えている。
こういう時ほど時間の流れの残酷さを思い知らされる。
でも、だからこそいつか訪れる別れの時までにかけがえのない思い出を作っておく必要があるのだ。
そしてその思い出をもってしても別れの悲しみが埋まらない時は友がその穴を埋めてやればいい。
それは自分でも他の誰かでもいい。
とにかく今アーヴァインがしてやれる事はその手助けをしてやる事だ。

「手始めにさ、家族で旅行とか行ったらどう?」
「旅行か〜。そういえば家族旅行とかこっち来てから行ってないかも」
「温泉でも海でも行ってゆっくりしてきなよ〜」
「いいねそれ〜。豆腐買って帰るついでに適当にパンフレット持って帰ろうかな〜。どっかお勧めとかある〜?」
「やっぱ無難な所でゴールドソーサー、ウータイ、トラビア、コスタ、ビサイド、ガガゼト、トレノとかかな〜」
「無難所たくさんあるな〜」
「少ないよりはいいだろ〜?」
「まぁね〜。家に帰ったらみんなに相談してみるよ〜。ありがと、アーヴァイン」
「どういたしまして。さて、アイスも食べ終わった事だし、この後どーする?」
「そうだな〜、銭湯行くのとかどう?」
「銭湯?昼間から?」
「朝からお酒飲んでる並みの悪い事してる訳じゃないしいいじゃ〜ん。それに僕、銭湯巡りが趣味なんだよね〜」
「面白い趣味だね〜。じゃ、近場の銭湯に案内してよ」
「りょーかーい!」

次の行き先を決定した二人は立ち上がると癒しの施設・銭湯へと向かった。











昼間から来たという事もあってか銭湯にはジャックとアーヴァイン以外の客はおらず、貸し切り状態の上に一番乗りというオマケ付き。
二人は喜び勇んで更衣室に入って着替えを取りやすい棚を確保し、腰にタオルを巻いて出陣した。
風呂の中は湯を張りたてた事もあってか湯気はまだ充満していなかったが、それでも床や壁はピカピカに磨かれていて気持ちが良かった。

「いいね〜!誰もいないって!」

銭湯で自分たち以外誰もいないという初めての状況に遭遇したアーヴァインは興奮気味に辺りを見回す。
と、何の前触れもなしにジャックが桶を掴んで軽く床に向かって叩いた。
するとポカ〜ンという耳に心地よい木の音が風呂の中で木霊した。

「どう?雰囲気出た〜?」
「バッチリだよ!」

何て冗談を言いながら二人並んでシャワーの前に座り、さっさと体を洗う。
そうして身を清め終わった二人は体を洗うのに使ったタオルを力の限り搾って畳むと頭の上に乗せて張りたての湯舟に慎重に足を入れた。

「あ〜〜〜・・・つく、ない・・・?」
「銭湯のお湯が熱いのって温度を上げる人がいるからだよ〜」
「なるほど〜。じゃあ張りたてでしかも僕達が最初だから適温なんだ?」
「そーいうこと〜。どーする?温度上げる?」
「いや、このままでいいよ。なんかレアな感じするしさ〜」
「んじゃ、入りますか」

程よい温かさの湯舟にゆっくりと体を沈めると、その分だけお湯が湯舟の外に溢れ出していった。
ジャバ、ジャババァと溢れていく様がなんだか爽快だった。
他に人がいないのを良い事に二人して縁に寄りかかって思いっきり足を伸ばす。

「ふぃ〜いい湯だな〜」
「貸し切り状態っていいね〜。足伸ばせるしさ〜」
「僕んち普通に伸ばせるけどね〜」
「でたな、金持ち自慢!」
「金持ちっていってもマザーが凄いだけだけどね〜。あとほら、ウチって人数多いからいっぺんに何人か入れるようにね?」
「今も一度に何人かで入ってるの?」
「そだよ〜。クイーンとかセブンに『早く入りなさい』って催促されるの」
「あ、なんか想像つく〜。それでクイーンとセブンが最後に入って後始末するんでしょ?」
「せーかーい!よく分かったね〜」
「お姉ちゃんのセブンと委員長のクイーンだから何となく分かるよ〜。お風呂掃除なんかはもしかして当番制?」
「勿論。任務とかでいない時は後でツケが回ってくるシステムだよ〜」
「へ〜しっかりしてるね〜」

アーヴァインは軽く笑うと肩にお湯をかけた。
温かいお湯が彼の肩にかかって疲労を取り去り、癒しを与える。

「ちなみにサウナは付いてるの?」
「流石にサウナはないかな〜。だからこういう銭湯に来た時に存分にサウナを堪能するんだ〜」
「じゃ、今から堪能してこようか〜」
「さんせ〜」

ザバァッ!とお湯を伴って立ち上がり、サウナへと向かう。
こちらも一番乗りだった為に室内の温度はそれ程高くなく、また人もいなくて広々としていた。
常時であれば座れる場所を探すか諦めるかするのだが今日は好きな所に座れる。
二人は贅沢に室内の真ん中の席に腰かけると、ぐっと体を伸ばした。

「貸し切りのサウナとか初めて〜!」
「僕もだよ〜。ていうかサウナ自体あんまり入らないし」
「サウナ嫌い?」
「別に嫌いって訳じゃないけど僕はどっちかって言うと湯舟に浸かってぼんやりしたいからさ〜」
「なるほど〜なるほど〜。確かに湯舟にぼんやり浸かるのもいいよね〜。特に露天風呂とかさ〜」
「露天風呂でぼんやりするの最高だよね〜!大自然を見てると心が癒されるんだよな〜」
「大きな滝が流れてて」
「沢山の緑の木々に囲まれてて」
「紅葉でもいいよね〜」
「冬の雪見も外せないな〜」

想像が膨らんでいき、豊かな露天風呂の景色が二人の瞼の裏に浮かぶ。
いつか休暇を取って行ってみたい。
ジャックは家族と、アーヴァインはセルフィやヴィンセントたちと。
きっと楽しい温泉旅行になるだろう。
二人は頬が緩まるのを止められなかった。

「あのさぁジャック」
「ん〜?何〜?」
「スーパーは三丁目のボムストアの方に行かない?あそこのスーパー大きいし、旅行会社のテナントも入ってるからパンフレット持ち帰りたいんだよね〜」
「さんせ〜!早速行こうよ〜」
「じゃ、上がりますか」
「だね〜。シャワーで軽く汗を流して、コーヒー牛乳飲んで行きますか」

十分過ぎる程に汗を流した二人は立ち上がるとサウナから出て行く。
銭湯は浴室も更衣室も相変わらずジャックとアーヴァイン以外の人間はいなかった。

「それからさ〜」
「ん〜?」
「また今度二人でのんびり散歩して銭湯行こうよ〜」
「いいよ、ジャックとのんびりするのも悪くないしね〜」

約束の証として二人はコーヒー牛乳の瓶をガチャン、とぶつけ合うのだった。











END
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