オリジナル倉庫

□膝枕
3ページ/5ページ

「チョコレートパフェ・・・」

間抜けな寝言が聞こえて瞳を開ける。
元々眠りは浅い方で、ちょっとした物音や気配、声なんかで目を覚ます性質のシェイド。
開いた先の視界に映るのは見慣れた自室の天井と幸せそうな寝顔を浮かべて眠りこける可愛い妻。
生れた時から食いしん坊で大人になった今でも変わらないそれはこうして寝ていても食べ物の夢を見ているようだ。

「相変わらずだな」

起こさないように苦笑しながら小さく呟いて頬に手を添えるとファインの寝顔に嬉しさが加わって一言。

「シェイドと・・・一緒に・・・嬉しいなぁ・・・」

猫のようにスリスリと頬擦りをして言うものだから思わず体が固まる。
こういう不意打ちを寝ながらにするとはなんと恐ろしい妻か。
普段は自分がリードしたり意地悪してからかったりして主導権を握っているだけにこうしたものには滅法弱いシェイド。
ファインが寝ているのがせめてもの救いだった。
もしも起きていたらからかわれていた事だろう。
その分の仕返しは勿論倍にして返すが。
今回は寝ていて知られる事はなかったので不意打ちの仕返しは4分の1程度に収めてやる事にする。

「ふあっ!?ら、らに〜!?」

むにっと頬を軽く摘めば驚いたように真っ赤な瞳が開いて慌てる。
してやったりとほくそ笑んでみれば視線に気付いたファインが頬を膨らませて怒った。

「もう!何すんのさシェイド!」
「間抜けな顔でチョコレートパフェなんて呟いてたからつい、な」

その後に続いてた寝言については勿論言わない。

「えっ!?アタシ、チョコレートパフェなんて言ってたの!?」
「言ってたぞ。パフェでも食べる夢でも見てたのか?」
「えへへ、実は。今度ミルキーと遊びに行く時に食べようねって約束してたから楽しみで夢にまで見ちゃったのかも」
「だからって楽しみにしすぎだろ。まぁ、いい事だけどな」

少し恥ずかしそうにしながらも嬉しさを隠さないでファインは笑う。
ファインとミルキーは食いしん坊同士で仲が良く、その繋がりもあってか赤ん坊の頃に家族以外で唯一言葉を理解出来ていたファインにミルキーは特に懐いていた。
月日が流れて成長してファインがこうして王妃として迎えられた今になっても二人の仲の良さは続いており、こうして度々食べ歩きの約束を交わしているのだ。
兄としても夫としても妻と妹が仲が良いのは大変喜ばしい事である。
しかしあまりにも仲が良くてたまに結託して何かやからすのが困りものだが。
もっと言うなら二人は共通して『シェイドが好き』という認識の元、シェイドを驚かせようとしたり喜ばせようとしてくるので照れ臭くて堪らない。
満更でもないのだが。

「そ、それでね・・・」
「ん?」
「・・・その・・・時間が出来たから一緒に行くって・・・夢の中でシェイドが・・・」

頬を赤らめ、視線を逸らしながら最後の方はごにょごにょと口籠るファインに中てられてシェイドもぎこちなく視線を逸らす。
またもや不意打ちを喰らわされて少し悔しかった。

(さっきの寝言の内容はこれか)

照れ臭いが良い事を聞いた。
後でさりげなく日にちを聞いてその日はなるべく仕事を入れないようにしよう。
そしてファインの夢を正夢にしてやるのだ。
それがシェイドの出来る精一杯の仕返しだった。

「そ、それよりもアタシの寝言で起こしちゃったみたいでごめんね!?アタシ出て行った方がいいよね!?」
「出て行ってもいいがその隙に俺は仕事をするぞ」
「ダメだよ!!」

先程までの恥じらうような表情とは打って変わって咎めるような表情を浮かべてファインが怒る。
仕事人間なシェイドは普段から政務に医者の仕事にと忙しくしており、休む暇があまりない。
本人が好きでやっているからとファインもあまり口出しはせずにシェイドの仕事を手伝ってくれているのだが、時々シェイドの疲れがピークに達しているのを察するとこうして強制的に休憩タイムを作って休ませにくるのだ。
シェイドとしてもタイミング良く休憩タイムを作ってくれるので有難い話なのだが、その休憩タイムの内容というのがいつもファインの膝枕でお昼寝というものである。
何でもレインの入れ知恵で、シェイドを休ませつつ夫婦仲良くイチャイチャ出来る手段が膝枕なのだと聞いてやっているのだとか。
一体どんな入れ知恵をしてるんだと呆れたものの、実は奥手でこういったものにあまり耐性のないファインが頑張って甲斐甲斐しく膝枕をしてくれているのだと思えば悪くない。
ファインとしても持って生まれた鋭い野生の勘でシェイドが膝から起き上がったらすぐに気付いて再び強制的に寝かせられるので恥ずかしいけど丁度良いらしい。
でも、たまには膝枕以外の寝方もしたい。

「休憩するのも立派な仕事だよ!」
「休憩と称して度々厨房に出入りしてはおやつを調達するのも仕事の内か?」
「うっ・・・そ、それは今関係ないじゃん!!」
「そうだな、目を瞑っておいてやろう。それよりも―――」

一旦言葉を切ってシェイドが起き上がるとファインが「あ」と言葉を漏らしてシェイドを引き戻そうと手を伸ばす。
その手を狙って引っ張ればファインを簡単に腕の中に捕らえる事が出来て、しっかり抱きすくめながらベッドに転がった。
一瞬何が起きたのか分からずに瞬きを繰り返していたファインだったが漸く状況を理解したらしく、途端に顔を真っ赤に染めて慌てる。

「え、あ、あの、シェイド!?」
「もう一回昼寝だ」
「だ、だからって・・・!」
「お休み」
「シェイド〜!」
「お休み」

耳元で直接囁けば華奢な体はビクリと跳ねてそれから抵抗する事もなく大人しくなった。
シェイドだけが知っている、ファインを大人しくさせる必殺技だ。
柔らかな赤い髪を撫でて緩く足を絡ませながらシェイドは心地良い微睡に意識を委ねるのだった。








END




→ヴィンユフィのターン
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ