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□膝枕
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サラリ、と髪を優しく撫でられる感触でフワリと意識が暗闇の底から浮上する。
目覚めの瞬間は好きだ。
気持ちがリセットされていて気分が良く、目を開けば光の世界が待っている。
何より愛しい人が笑顔で迎えてくれる。
そんな事もあってブライトは寝起きが良かった。
いつもであれば起きた時は上半身を起こし、両腕をぐっと天井に向けて体を伸ばすのだが今日は片腕しか伸ばさない。
なんなら体すら起こさない。
後頭部にある心地の良い柔らかさと目の前の神々しい光景を前にしたら起きる方が罰当たりだと思ったからだ。

「・・・女神様・・・?」

緑豊かな木の隙間から差す木漏れ日を背に微笑む彼女は本当に女神のようで。
光によってぼんやりと浮かび上がる柔らかな曲線の輪郭とサファイアのように美しく長い髪、エメラルドグリーンの瞳、分け隔てなく振り撒かれる優しい笑顔。
これだけの要素が揃っていれば誰だって女神だと思い込んでしまうだろう。
だから自分の発言はある意味間違っていない筈だ。
その存在を確かめるように滑らかな頬に手を伸ばして撫でると女神がクスッと笑って添えられた手に自分の手を重ねて来た。

「もう、ブライト様ったら。そんな風におだてても何も出ませんよ?」
「本当の事を言ったまでさ」

素直に思った事を口にすれば撫でていた頬に朱が差す。
大人になってもこうして分かり易く好意を表に出す彼女がいじらしくて愛しいなぁと思う。

「レインは本当にいつ見ても綺麗だね」
「も、も〜!ブライト様!!」

今度は顔を耳まで赤くして恥ずかしそうにレインが怒る。
勿論嘘じゃないし本当の事だ。
本当の事なだけに困る話でもあるのだが。
レインの美しさは日を追うごとに磨きがかかり、ブライトと結婚して王妃になったにも関わらずパーティーで多くの男性が声をかけて近付こうとする。
元々優しくて平等に接する性格なものだからそれに付け込んで接近する輩が後を絶たない。
唯一、しっかり者であるという点のお陰でそうした輩の誘いは上手く躱したりブライトの元に逃げ込んでくれるお陰でやり過ごせているがそれでもブライトの心配と嫉妬は尽きない。
同じ悩みを抱えているであろう月の国の友人に今度話してみようか、なんて考えていたらレインが頬を膨らませて拗ねてきた。

「そんなに褒められると恥ずかしくなっちゃいます・・・今日のお昼寝タイム、終わりにしちゃいますよ?」
「ダメダメ、まだ寝足りないよ」
「ひゃっ!?」

はしたないと思いつつもぐりぐりとレインの太腿に頭を押し付けたらレインが分かり易く肩を跳ねさせた。
それからはもう色々なものが限界突破したのか、頭から煙を出して真っ赤な顔でぐったりと木に凭れ掛かった。
今日のお昼寝タイムの延長は成功である。

「お休み、レイン」

愛しい妻の掌にキスを落としてブライトは再び甘美な微睡に身を任せるのだった。








END




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