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□ハッピーエイプリルフール
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放課後のロイヤルワンダー学園。
授業が終わり、減点もなく、放送委員の仕事や部活の助っ人のないレインとファインはご機嫌だった。
ついでにテンションも高い。
というのも今日はエイプリルフールだからだ。

「「授業終わり―!イェーイ!」」
「ねぇねぇ!どんな嘘付く!?」
「そりゃあもうド派手でゴージャスでみんながあっ!と驚くような嘘よ〜!」
「お二人がそんなウソをつくなんて絶対無理でプモ・・・」
「ピュー」
「キュー」

ファインとレインとの付き合いが長いプーモは二人の性格を見抜いて呆れたようにコメントをするとピュピュとキュキュは苦笑した。
しかしそんな時の事。

「レイン、ちょっといいかい?」
「ブライト様!!?」

隣のクラスからやって来たブライトが教室の入り口に立ってレインの名を呼ぶとレインは瞳を輝かせて瞬時に振り返った。
相変わらずブライトの事になると反応が早い。

「これから用事があって街に行くんだけど付き合ってくれないかい?どうしてもレインについてきてほしんだ」
「行きます行きます!是非一緒に行かせてください!!」
「良かったじゃないレイン!後でデートの報告宜しくね?」
「もうやだわ!ファインったら〜!!」

デートの報告の下りをレインにだけ聞こえるように耳打ちすると照れたレインに思いっきり背中を叩かれてファインは「いだっ!」と悲鳴を上げるのだった。

「それじゃあねファイン!」
「う、うん・・・じゃあね」

今にも羽が生えそうなほど足取り軽くステップを踏みながらレインはブライトと共に教室を出て行く。
その際にキュキュはピュピュに軽く別れの挨拶するとレインを追いかけて肩に停まるのだった。

「う〜いたた・・・」
「大丈夫か?」
「あ、シェイド」

レインに叩かれた背中を擦って呻いているとシェイドが近くに歩み寄って来たのでファインは軽く苦笑を返す。

「かなり良い音がしたぞ」
「レインもそれだけ嬉しかったって事だよ。でも一人になっちゃった。シェイドは今日も医学の勉強するよね?」
「今日くらいはお前に付き合ってやってもいいぞ」
「本当!?」
「たまには息抜きも必要だ」
「やった〜!何する何する!?」
「さっきエイプリルフールで張り切ってただろ?それにちなんだゲームなんてどうだ?」
「ゲーム?」

ファインが首を傾けると傍にいたピュピュとプーモも同じ方向に首を傾けるのだった。





その頃、街に到着したブライトはレインの方を向くとこれからについて尋ねていた。

「これから文房具屋に行ってノートを買うんだけどレインはどこか他に行きたい所はないかい?」
「ありますあります!新しく出来た公園とか最近噂の紅茶のお店とか喫茶店とか!あ、勿論ブライト様の用事が優先ですけど!」
「僕の用事はノート買うだけで終わるからその後にレインのその行きたい所に全部行こうか」
「ええっ!?でも、どうしてもついてきてほしい用事があるって・・・」
「うん、嘘だよ」
「嘘?」
「今日はエイプリルフールだろう?だから嘘をついたんだ。レインと二人で街に行きたくて」

少し照れたように頬を掻きながらそう言い放つブライトにレインは胸のときめきを抑えられず「ブライト様・・・!」と感激の声を漏らす。

「やっぱり迷惑だったかな?」

悪い事をして落ち込む子犬のような瞳でブライトが聞いてくる。
ズルい人だ。
そんな目で見つめられてはどうしたって許してしまうではないか。
元よりレインに許さないなんて選択肢などないが。

「そんな事ないです!私、とっても嬉しいです!」
「そう言ってもらえて僕も嬉しいよ。早速どこから行こうか?」
「ここからなら喫茶店が近いので喫茶店に行きましょう」
「喫茶店だね。それじゃあ、お手をどうぞ、プリンセスレイン」

スマートで優しく丁寧なリードにレインは頬を赤く染めると「ええ」とお淑やかに頷いて静かにブライトの手に自分の手を重ねた。

「今日の星座占いでね、レインの星座は誰かと手を繋ぐと運気がアップするってあったんだよ」
「そうなんですか?」

夢見心地の中、ブライトが少し悪戯っぽくそう言った。

「だったらブライト様のお陰で今日はとっても素敵な一日になりますね!」

でもレインは知っている。
今日のレインの星座が誰かと手を繋ぐ事で運気がアップするなんてないという事が。
今日はたまたま友人から本日の星座占いの話を聞く機会があり、その時の運気アップのおまじないが漢方薬を飲むという遠慮したいものだったのをよく覚えている。
だからきっと、これはブライトが考えた嘘なのだ。
レインと手を繋ぐ為の口実。
そんな口実など作らなくても彼はいつだってプリンスらしくエスコートしてくれるがきっとエイプリルフールに乗っかってレインを喜ばせてあげようと考えた嘘なのだろう。
そうだったらいいなと思ってレインは自分の都合の良いように解釈する。
けれど実はレインの解釈通りであったのはここだけの話である。

「あ、ここです。気になってた喫茶店は」

目的地の店の看板が見えてレインが指を差す。
表に出てるメニュー表を見ると『カップル向けメニュー』なる文字がデカデカと書かれており、二人は顔を見合わせる。

「カップルメニューだって」
「注文・・・してみます?カップルって嘘ついて」
「してみようか。今日はエイプリルフールだし、嘘をついてもへっちゃらだよ」
「はい!」

今日は素敵なエイプリルフール。
二人でとびっきりの嘘をついた日。
でもいつか、この嘘を本当にしたいと思うレインなのであった。








一方のファインはシェイドと共に街でとあるお菓子を購入した後に寮のサロンに訪れていた。
放課後といってもまだ明るい時間なのでサロンにいる生徒の影はまばらだ。
そんなサロンの星型の机の一つにファインとシェイドは向き合って座り、ゲームを始めようとしていた。

「よし、これからダウトをするぞ」
「ダウト?トランプないよ?取ってこようか?」
「いや、トランプは使わない。言葉遊びのダウトだ」
「言葉遊び?」
「単純にこれからお前と俺で話しをする中で嘘だと思う事があったらダウトと言う。言われた方はそれが嘘であった場合は正直に認める。面倒な言い訳は無しだ、キリがない。それから嘘がバレた時、嘘でなかった時に罰ゲームがある」
「罰ゲームって?」
「これを目の前で食べる、或いは食べられる」

そう言ってシェイドが指差したのは街で買ってきたハートの形をした『ラブハッピーチョコ』と呼ばれるイチゴ味のチョコレートだ。
そのお菓子は今ファインがハマっているお菓子で、店に行った時にシェイドがそれを聞いて購入したのだ。
ちなみに太っ腹な事にピュピュの分も購入してくれたのだがピュピュは後でキュキュと一緒に食べると言って開けないでそのままぺったりとお菓子の袋に寄り添って寝ている。
ファインに似て食いしん坊でよく待ちきれずに食べてしまう事が多いのだが、仲の良いファインとレインの影響でキュキュと分け合って食べたいという気持ちが芽生えたらしい。
それをプーモが褒めてピュピュの頭を撫でるとピュピュは嬉しそうにしていたのであった。
さて、このお菓子を購入した意図が最初は分からなかったファインだったが、ゲームの為なのだと知って納得をする。
だが一部納得出来ないものもあった。

「えー!?目の前で!?」
「そうだ」
「じゃあアタシが間違えたりシェイドが嘘を見破ったらシェイドがアタシの目の前でそれを食べちゃうの!?」
「ああ」
「うぁぁ・・・あんまりだぁ・・・」
「精々頑張ってミスしないように嘘を見抜くんだな。嘘を見抜けばお前も食べられるんだからな」
「て、ていうかこの罰ゲームってシェイドには何の損もなくない!?アタシが目の前で食べたところでシェイドにとっては何もないよね!?」
「痛くも痒くもないな」
「酷い!言い切った!!」
「強いて言うなら俺が買ったお菓子をお前に食べられるという点では損と言えば損かもしれないな」
「それだけじゃん!アタシの精神的ダメージの方が大きいよ!!」
「悔しかったら俺の嫌がる物を用意してみせろ」

ニヤリと、とことん意地悪く笑うシェイド。
シェイドの嫌がるものなんてすぐに思いつく筈もなく、ファインは悔しそうに唸った後、ガックリと肩を落として白旗を上げるのだった。
シェイドはぶっきらぼうでたまに意地悪な時もあるがその実はとても優しく、そしてその全部が好きでファインはシェイドに惹かれている。
しかし時々今みたいにとんでもなく意地悪な事をしてくるのには頭を抱えていた。
それがしかも自分だけに仕掛けられてくるのがまた悩み所である。
何か機嫌を損ねるような真似をしてしまったのだろうかとその度に思い悩むファインだが、シェイドのこの意地悪の真意を彼女が汲み取るのはまだまだ先のようである。

「泣いてないで始めるぞ。今日はエイプリルフールだから嘘をつくと張り切っていたみたいだが毎年やってるのか?」
「うん、そうだよ。レインと一緒に考えて誰にどんな嘘つこうかって作戦を立ててるんだ」
「成功した試しは?」
「そりゃぁもう―――」
「ダウト。絶対毎回失敗してるだろ」
「うっ、早くも見破られた・・・」
「薄っぺらい見栄は張らない事だ」

不敵に笑いながらシェイドは早速チョコを一口手に取る。
それを恨めしそうに眺めながらファインは尚も食い下がる。

「ちなみにお父様やお母様やキャメロットは空気を読んで騙されたフリをしてくれたりしたんだけどそれは―――」
「カウントされないからな」
「やっぱりか〜。シェイドはエイプリルフールに嘘付いた事ないの?」
「あるぞ。子供の頃に初めて母上相手に実行したらお前達と同じように騙されたフリをしてくれた」
「そうなんだ、ムーンマリア様優しいね」
「ただ母上も忙しいからそれっきり実行しようとは思わなかったけどな」
「ふーん。まぁ仕方ないよね」
「ま、エイプリルフールに関係なく大臣の所為で良くも悪くも嘘や演技、それらの見抜き方のコツは磨かれたけどな」
「あはは、そっか。でもそれも仕方ないよ」
「だが流石の俺も野生の勘を持つ奴には敵わなかったがな。まさかお前の勘があそこまで鋭いとは思わなかった」
「ん?シェイドがエクリプスの正体だって見破った事?」
「そうだ」
「違うよ?あれは勘じゃなくてちゃんと根拠はあるよ」
「ダウト。絶対何となくだろ」
「そんな事ないって!ねぇプーモ?」
「そうでプモ。エクリプスとシェイド様が同じ箇所を怪我しているとファイン様が気付いたのでプモ」
「あの時の手首のあれか・・・」
「えへへ、そーいう訳でチョコいただきま〜す!」

ファインは得意そうに笑うとチョコを一つ摘んでひょいっと食べる。
勝利のチョコの味にファインは酔いしれるのだった。

「遅かれ早かれバレていただろうし、結果的に自由に動けるようになったからいいがな」
「終わり良ければ全て良しって言うしね」
「それと引き換えにお前らのお守をする事になったのは・・・まぁ楽しかったな」
「ダウト!絶対楽しかっただなんて思ってないでしょ!?」
「よく分かったな」
「嫌でも分かるよ!嫌味全開な嘘つかないでよ!!」

頬を膨らませてファインはまた一つチョコを頬張る。
今度はその味に酔いしれる事は出来なかった。

「全くもう、シェイドってば本当に意地悪なんだから!」
「時には正直な事も言わないと嘘の深みがなくなるからな」
「だからって今ここで正直な事言わなくてもいいじゃん」
「お前はガス抜き相手には丁度良い」
「それ喜んでいいの?」

喜んでいいでプモ、という言葉をプーモは心の中に留めておくのだった。

「ま、いいや。そういえば明日から体育の内容ってサッカーからバスケになるんだよね?」
「そういえばそうだな」
「バスケも好きだから嬉しいなぁ。バスケでもシェイドに勝っちゃうかもね〜?」
「ダウト。それはないな。俺が勝つ」
「ダウト。何度もバスケ部の助っ人に参加してるアタシに勝てると思ってるの〜?」
「ダウト。その過信が失敗に繋がるんだ。この間の体育のサッカーの試合がそうだっただろ?」
「ダウト!アレはレモンの不意打ちが上手かっただけだもん!」
「ダウト。お前が油断してそこに付け入れられただけだ」
「あのぅ、お二人共。段々ダウトの使い方が雑になってるでプモ・・・」

プーモが半ば呆れたように修正を入れようとするが二人の耳には届かず、ダウト合戦は続いた。

「ダウト。油断なんかしてないもーん。ちょっと気になる事があっただけだし」
「ダウト。昼食のハンバーグに浮かれてただけだろ」
「ダウト。あの日はハンバーグじゃなくてカレーだよ!試合の最中にすっごく楽しみにしてたの覚えてるから間違いないよ!」
「フッ、やはり昼食の事で浮かれてたか」
「あぁっ!?し、しまった〜・・・」

シェイドの引っ掛けにまんまとかかり、ファインはガックリと項垂れる。
今回のダウト合戦の勝者はシェイドであると言えよう。
シェイドはチョコに手を伸ばすとこれ見よがしにそれをまた一つ食べてみせた。

「俺の勝ちだな」

(勝敗の線引きが分からないでプモが・・・もう何でもいいでプモね)

「あーあ、負けちゃった。やっぱシェイドには敵わないや」
「そう簡単に勝てると思うなよ」
「じゃあ最後にもう一回だけ勝負!」
「いいだろう」
「明日はレインは放送委員の活動があってアタシは部活の助っ人ないんだよね。だから明日も予定無しなんだ」
「ダウト」

即座に宣言されて同時に軽くデコピンをされる。
「いでっ」と小さく悲鳴を上げて少し不満そうな視線を送るとシェイドはまた不敵に笑っていた。

「明日も俺とどこかに出掛けるという予定があるだろ」
「・・・!うん!」

不満から満足な笑顔に変わり、ファインは嬉しそうに頷く。
そうか、と言われて流されるのではという不安があったがその逆の結果になったので尚嬉しかった。
こうして今年のエイプリルフールは幸せに和やかに幕を閉じるのだった。






END
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