短編

□チャンスをもう一度
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外では日がよく照り、体中に汗がじわりと滲む。少し暑いが、夏はまだこれからだ。そんな天気のある日、双六一は暇を持て余していた。

仕事が落ち着いてきた時期だったので、長めの有給休暇をとり、ハジメは仁志と本土にある家に戻っていた。
そのとある日、仁志と家から少し離れた場所まで買い物に来ていたのだが、4舎で問題が起こったと言うので、仁志が呼び戻されてしまったのだ。元々付き合いで来ていたハジメは、その場所に用事はなく、かと言って帰ってもやることがないので、ぶらぶらと店から店へと歩き回っていた。
吸っていた煙草の煙を吐いたそのとき、ハジメはある服屋の前でふと立ち止まった。なんとなく服でも見てみるか、という気持ちになったのだ。

一体何故そこで立ち止まったのか。入ったことのないその場所に、何を感じ取ったのだろうか。
そこで立ち止まったのは偶然か、それともー



小さな店、というわけでもなかったが、商品が所狭しと敷き詰められており、ひどく窮屈な感じがした。
吸い寄せられるように奥へ奥へと進んでいるとき、何かと肩がぶつかった。ハジメの胸辺りに頭があるくらいの人物だった。

「あ…さーせん」

その人物が謝罪の言葉を呟き、ハジメを見上げた。ハジメもその輩を見下ろす。

目が合ったその刹那、お互いが目を剥いた。

「…お前…!」
「げッ!!」

そこにいたのは数年前に出所した囚人だった。
刑期中さんざん自分に迷惑を掛けまくった挙げ句、数年経った今でさえ、あからさまに嫌悪感をむき出しにした声を漏らした元囚人に頭に血が上るのを感じ、彼の頭を上からガッと掴み、ハジメは思い切り力を入れた。ミシミシという音がして、ジューゴが苦痛の表情で眉間に皺を寄せた。

「いてててて!痛い!痛いってハジメ!!」
「『げッ』ってのはどういう意味だてめえ、ああ?15番!」
「そんなことより離せッ!馬鹿力!ハゲゴリラ!!」

誰がゴリラだ、と言い返そうとした時、ハジメは周りがざわつき始めたのに気付いた。つい頭に血が上ってしまったが、ここは刑務所ではなかった、という事を思い出したのだ。
ハジメはチッと舌打ちをして、ジューゴの首根っこを引っつかんだ。

「ここじゃ目立つ。出るぞ」
「は!?何勝手に…ちょ…離せって!ハジメ!!」

周りの困惑した視線に見送られ、騒ぐジューゴを完全無視しつつ引きずりながら、ハジメはその店を後にした。
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