短編

□私のものになって
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「お前本当何も知らねーな」
「あ、ウノ君とロックだ」

彼らの前には、ニヤニヤと笑うウノに、呆れた顔のロックが立っていた。

「ていうか、お前相変わらずノリ悪いよな。また1人でぼーっとしやがって」

ウノの言葉に、ジューゴが面倒くさそうに溜め息を吐いた。

「うっせーな、つーかお前らもういいのかよ」
「うん、飽きた」

あっさりと言うウノに、ジューゴが特に興味も無さそうにそうかよと呟いた。

「まあ、そろそろハジメ来るだろうしな」

ロックの言葉に、ジューゴが内心どきっとした。
ハジメ。
少し離れたところから自分たちを監視する男の名前。
いつも聞いている言葉なのに、心臓がこんなに脈打つのは、さっきのニコの言葉の所為に違いない。

さっきの言葉―シロツメクサの花言葉。

「で、なんなんだよ花言葉って」

ジューゴが動揺を悟られないように平静を保ちながらそう尋ねた。

「花にはそれぞれに言葉があるんだよ。どれも意味のある言葉だし、さっき言ったヤツみたいにジンクスっぽいのもあったりするんだ!」

ニコがジューゴの質問に答えながら楽しそうに笑った。

「へえ…てか、こんな雑草にも付いてるんだな」

そう言ってジューゴは側にあったクローバーを手で弄ぶ。
その時、ふと彼は思い出した。

―そうだ。こいつ、さっき何か言いかけなかったか?

ウノに遮られたてしまったが、何かを言おうとしていたはずだ。
あの言葉の続きは一体何だったのだろう。

「あ、そうだ!ねえジューゴ君見て!」

訊こうとしたが、ニコも忘れているようなので、それほど重要なことではないのかもしれない、とジューゴは思った。
そう思うと、その言葉の続きへの興味が薄れ、ジューゴは言われるがままに彼の方に視線を移した。

「…冠?」

すると、視線の先にあるニコの手中にはシロツメクサの冠があった。

「おお…凄いな、ニコ」
「へぇ、上手いもんだな」

中々の出来映えに、横から覗き込んだロックとウノが感心したように言った。

「こないだ読んだ漫画の主人公が作ってたんだ!真似してみた!」
「お前こーいうのも真似出来んのかよ…」

彼の興味関心の幅の広さと器用さに、ジューゴはただただ凄いな、と思い声を漏らした。
その時、ニコが何か思いついたような顔をして、目をきらきらさせながらジューゴに詰め寄った。

「ジューゴ君も作ろうよ!」
「え?」

ニコの突然の提案に、ジューゴが戸惑った表情で彼を見た。

「おいおい、ジューゴにこんなん作れる訳ねーだろ」
「確かにな、きっと、いや、まず無理だろうな」

ニコの言葉に、ウノとロックが呆れたように、また好き勝手にそう言った。

「ほんっ…とに言いたい放題だな、お前ら」

遠慮がない彼らをジューゴがギロリと睨んだ。
だが、2人は全く悪びれずに、本当のことだろ、としれっと言い放った。
それを聞いて、悔しいが確かに本当のことであることを痛感しているジューゴは何も言い返せなかった。

―確かに俺には無理そうだけど…でも…。

ふて腐れた表情で俯いていたジューゴだったが、やがて何か決心するように顔を上げた。

「…やる」
「ほんと!?やった!作ろう作ろう!」

ジューゴの言葉を聞いて素直に喜ぶニコの横で、ウノが意外そうな表情をした。

「へえ、珍し。興味ねえとか言うと思ったのに」
「…別に、何となくだ」

本当の理由を言うことが出来ず、ジューゴは誤摩化すように努めて素っ気なく返した。
そして自分の中に芽生えた気持ちに、ジューゴ自身も戸惑っていた。
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