過去拍手文

□バレバレなんだよ
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「んー…じゃまあ、とりあえずビール!ハジメは?」
「ハイボール」
「かしこまりました」
「あ、あと枝豆1つ」
「枝豆1つですね」

注文を打ち込んだ店員は、それでは少々お待ち下さい、とだけ言って去って行った。店員が去って行くのを横目で見届けてから、ハジメは目の前の相手へと視線を向けた。

「…で、急に呼び出して何の用だよ、三鶴」

ハジメは懐から煙草を取り出しながら、不機嫌そうにそう訊いた。
今2人が居る場所は刑務所ではなく、本土のとある居酒屋である。ハジメは職場の制服ではなく、私服のシャツ姿だ。もちろん、彼の目の前でにやついている男、三鶴も私服姿であった。

「用がなきゃ呼んじゃダメなのかよ?」

頬杖をつきながらニヤリとする三鶴を見て、ハジメは舌打ちをした。

「…ハッ、んなこったろうと思ったよ。こちとらテメェの気まぐれに付き合ってる程暇じゃねえってのによ」

まあもう慣れたけどな、とハジメは小さく呟き、煙を吐いてから、吸い殻を灰皿に乱暴に押し付けた。苛ついているハジメに、三鶴はニヤニヤと笑った。

「…とか言ってなんだかんだいつも来てくれんじゃんハジメツンデレ」
「そんなにシバかれてぇか」
「イヤーンこわあい」

高い声でおどける三鶴に、気持ち悪ィと吐き捨て、ハジメは2本目の煙草を取り出した。三鶴が相変わらずじっと見つめてきたので、ハジメは訝しげに彼を睨んだ。

「なんだよ」
「最近煙草の量増えたよなお前」

その言葉に、ぴくっと眉を寄せながらも、ハジメは、いつもと変わらない調子を心がけて返答した。

「…そうか?」
「無意識かよ…全く、ストレス溜まっちゃってんじゃねーの?」

煙草に火を点けながら、ハジメがまた苛ついた様子を見せた。

「…そうだとしたらこの2本目はお前の所為ってことになるが」
「んーちょっと何言ってんのかわかんないかなー」

三鶴がごまかすようにおどけた。調子の良い野郎だ、といつものことながら思う。だが、ハジメが苛ついているのは、実は別の理由であったりするのだが。
―そうだ。こいつはさっきからさりげなく…。本当に苛つく。

ハジメが自分でも気付かないようなことに気付いて、この男は自分の側に居ようとする。色々なことを悟られないように、ふざけた調子で自分を包んで。

―バレバレなんだよ、いつも。

小馬鹿にしながらも、何気なくハジメを心配する言葉を掛けてくることも。気まぐれで誘った体で、ハジメを気遣って行動していることも。
本当にムカつく。それが分かるからこそ、なおさら。
変な気ぃ遣ってんじゃねえよ、三鶴のくせに、と理不尽な苛立ちが湧いてくる。

―だから…嬉しいなんて思ってんじゃねえよ。

自分の心の奥底に芽生えたこの感情は、こいつには死んでも知られたくはない。

「何だよ、黙り込んじゃってさ」

頬杖をつきながら訊いてくるこの男は、俺の気持ちなど全部見透かしているんじゃないかとさえ思えて、なんとなく気に入らなかったハジメは、ぞんざいに「何でもねえよ」とだけ吐き捨てた。

end
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