短編

□私のものになって
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難攻不落の要塞城から見える空、緑。
普段なら囚人の自分が目にすることはないものだ。
だが、今日はいつもとは違う。
13房の囚人仲間と一緒に、自由時間に中庭に来ていたのだった。

他の3人が追いかけっこをして遊んでいる中、ジューゴは退屈そうにその様子を眺めていた。
ふと周りを見渡すが、やはり彼が興味を引くものはない。
他の舎のことはよく知らないが、比較抜きにしても簡素で情緒も何もない場所であるということはジューゴにも分かった。
ジューゴじゃなくとも退屈と感じるであろう。
もちろん花などは植えておらず、雑草か自生のものくらいだ。
彼はそういったものに興味もないのでそれで良いと言えば良いのだが。

早く自由時間終わんねぇかな、と考えながら、ジューゴはその場に寝っ転がった。

ふわっと風にのって自分の鼻に運ばれる草の匂い。
空の青が目に飛び込んでくる。
ふと、案外こういうのも嫌いではないかも知れない、とジューゴは思った。

横を向くと、目に入ってきたのはたくさんのクローバーと白い小さな花。
見覚えのあるそれに、ジューゴはじっと見入った。

―なんか、クローバーって別名あったよな。確かー、

「シロツメクサだね」

名前を思い出そうとしていた時、上から降ってきた声に、ジューゴは寝返りを打って声の主を見上げた。

「ニコ、もう良いのか」
「うん、ちょっと僕疲れちゃったし」

そう言って、ニコはジューゴの隣に座った。
それを見たジューゴが起き上がって、ニコの方に向き直った。

「シロツメクサか、よく知ってたな、お前」
「こないだおじさんに教えてもらったんだ!」
「おじさん?」

怪訝そうな表情をしたジューゴにニコが答える。

「チィーのおじさんだよ、ほら5舎の!」
「ああ、あいつか」

ハジメよりは若かったはずの彼に「おじさん」と呼ぶのは少し可哀想なのでないかと思い、あんまおじさんって言ってやんなよ、と少し呆れたようにジューゴが言った。
が、ニコはなんで?と首を傾げるので、ジューゴは説明するのも面倒で、更に割とどうでも良いと言えば良いので、なんとなくだ、と言葉を濁した。

「…『私のものになって』」

その時、何の前触れもなく、ニコがそう呟いた。
その言葉に、ジューゴが不思議そうな顔をした。

「ん?何だいきなり?」
「花言葉だよ、シロツメクサの」

これも教えてもらったんだ、とニコは笑った。

「花言葉?」
「そう!恋仲になった2人が交わした約束を守るとね、幸せになれるんだって!」

ジューゴは、花言葉とは何か、と聞いたつもりであったが、ニコはそれに気付かず、話を続けた。

「へえ…」

―恋仲、か…。

その単語に、ジューゴはどこか思案顔になった。

「あ、あとね…」
「んだよ、ジューゴ、花言葉も知らねーのかよ」

自分の言葉の続きを紡ごうとしたニコの声は遮られた。
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