短編

□夜と感情と素直な君と
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「痛っ…!」
「ったく…てめえは何回俺の手を煩わせれば…」

そうしてようやく目覚めた囚人の頭を掴んだまま、ぐいっと後ろに手を引き、怒鳴りつけようと思い彼の顔を見たその時、ハジメが言葉を失った。

やつれた顔。
濡れた頬と瞳。
充血した眼。

一瞬体調が悪くなったのかと思ったが、そうではないのだろう。
この表情を以前にも確かに見た。

「お前…」

泣いてたのか。

そう訊くと、放心状態だったジューゴがはっとして、目元を乱暴に拭った。

「っ…見るなっ…!」

腕で目元を隠したまま、ジューゴは絞り出すように小さく叫んだ。
お前には弱みを見せたくない、そう言いたげだった。

ハジメは黙ったまま、何かを抑えるように、ジューゴの頭に添えている手と逆の方の手に力を込めた。

人前でもお構いなしに泣いたりもする癖に、たまにこうして感情を押し殺して全て包み隠そうとする。
それがハジメには気に入らなかった。

お前が弱いことなんて知ってるのに、どうしてそう強がろうとする。

だが、ハジメに対していつも生意気で強気に振る舞っている奴としては、こんなところを見られるのは癪なのだろう、というのは理解できるのは確かである。
今更遅い気もするが、今日はそういう気分なのだろう、とハジメは納得したふりをして、ジューゴの頭を軽く叩いた。

「…見られたくねえんなら、さっさと房に戻れ。どうせ他の奴らは寝てんだろ、気にすんな」

きちんと捕まえて房内まで移送するのが筋であろうが、こいつはこちらが相手にしなければ勝手に戻っている奴である。
何より、今、これ以上一緒にいたら、感情を堪えきれない気がして、ハジメは足早に立ち去ろうとした。
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