短編

□夜と感情と素直な君と
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皆が寝静まった獄内。
不気味な程静かな空間には、自分の足音だけが鳴り響いている。
夜も更けた中、双六一は1人、見回りをしていた。

ここの刑務所のセキュリティは万全である。
隠し防犯カメラもあらゆる場所に備え付けられてあり、監視の目に死角はない。

本来なら見張りは映像を確認するだけで事足りるのであるが、そうもいかないのがこの13舎であるのだ。

ハジメは、ふと何かに気付き、足を止め眉を寄せた。
何かがいてはいけないはずのこの廊下に、1つの影がうずくまっていたのだ。

「そうもいかない」理由の原因を、今日も見つけてしまったようだ。

はあとわざとらしく溜め息を吐き、ギロリとその影を睨んだ。
どうせまた「なんとなく眠れない」とかなんとかいう巫山戯た理由で抜け出したんだろう。

ハジメは徐にその影に近づき、膝を抱えて俯いている「奴」の前に仁王立ちし、目を怒らせて見下ろした。
「奴」―囚人番号15番は、ハジメが目の前に立っても気付いていないのか身動きすらしなかった。
抜け出したは良いが、力尽きて眠ってしまったのだろうか。

―囚人の癖になんて自分勝手な餓鬼だ。

軽い気持ちで罪を重ね、自分の負担を増やすこの囚人に、毎度毎度苛立ちながらも、慣れて来てしまっている自分がひどく情けなくなった。
胃が痛くなるのを感じながら、はあともう一度溜め息を吐き、ハジメはしゃがみ込んだ。

「おい15番、起きろ」

なけなしの思いやりから軽く揺さぶるが、やはり彼は目を覚まさない。
お世辞にも気が長いとは言えないハジメは、チッと舌打ちをし、その僅かに残っていた優しさをかなぐり捨て、ジューゴの後頭部をガッと手荒く掴んだ。
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