STORY
□第三章 交わらない想い
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「確かに、モデルさんみたいにスラッとしていて、顔立ちもお綺麗で、最初外国人の女性だと思ってたんですよ」
悠人が女性に間違われるのは、何も将斗に限っての話ではない。
「肌もお綺麗ですし」
「女の私でも嫉妬するくらい睫毛長いし、美貌の塊よね」
「いやはや、僕からすればアキちゃんも充分お美しいと思います」
「…ありがとう」
社交辞令だろう。適当にお礼を言うと、不安げな顔をされた。
「あぁ、でも今日はちょっと元気がないみたいですね」
ふと目が合う。いつも隠された瞳が見えた。今は茶色の瞳だ。黄金色の瞳などではない。昨日のは目の錯覚ではないか。
「そりゃあ、ハルちゃんが夜から患ってて、朝もひどくてひどくて」
「病気ですか?日光に当たるととか…」
「日光は平気よ。まあ病気といえば病気よねぇ」
本堂は、本来雑談する場所ではない。いつものカフェに場所を移そうと立ち上がる。
「アキちゃんを悩ませるくらい?」
「解決する悩み事なら、悩んでないのよ。ごめん、例の場所で話そっか。今日休みでしょ?」
本来私は、立ち直りの早い性格だ。一日も引きずらない自信があるが、今回ばかりは長引きそうだ。
カフェでコーヒーを頼むと話を再開する。
「ハルちゃんとは、12年一緒に暮らしてるけど…」
「どうして恋人じゃないのか、不思議に思います」
恋人になれたなら、こんな内容に悩む必要ないのに。
「ハルちゃんから聞いたと思うけど、女性に興味を持てないんだって」
だからこそ同性相手なら、全く嫉妬の対象にならずに済んだのだ。しかも、悠人は一途に絵の中の男性を愛していたのだから。強いていえば何回も描かれるその男性に嫉妬したぐらいだろう。
「勿体ないですよ、それ。せっかくアキちゃんと住んでいるのに」
「ねぇ、マサ。私達ってお似合い?」
一瞬、顔を曇らせる将斗。何故だろう。
「えぇ。お似合いですよ。なんてたって美男美女ですから。僕は遠く及びませんし」
最後の一言で私と悠人のどちらに対してだと疑問が生まれたが、将斗は異性愛者の筈だ。
「見ていて羨ましいと思います。ほら、僕ってこんななりだし…」
「ハルちゃんが貴方に言ってたわ。ちゃんと顔を見て話せと」
「悠人さんがですか?」
「えぇ。だって貴方が何を考えてるか分からないもの」
「…すみません」
消え入るような声。悠人を外出させようと躍起になった時はもっとはっきりとした声だったのに。
「私って真っすぐ見すぎなのかな…」
「それって悠人さんに指摘されたのですか?」
「うん。真っすぐ見すぎるから将斗が、気恥ずかしいんだってさ。そうなの?」
途端に耳まで真っ赤にする将斗。そんなに恥ずかしがることないのに。
「は、はい。僕には眩しすぎて」
「そう構えられるの嫌なの。いっつも貴方とは見えない壁を感じるもの」
ハッとする将斗。どうやら心当たりはあるようだ。
「僕が貴女と同じ場所にいるのでさえ、奇跡なんですよ。だから、その畏れ多くて…」
こんなおどおどしていて、自分を遜るにもほどがある将斗にどうして惹かれるのだろう。悠人の感性が分からない。
「ハルちゃんはそんなこと言ったりしない。ただの世話焼きだって言うもん」
「悠人さんは、孤高なイメージがありますね。アキちゃんの優しさが分からないのかも…」
「でも、私のことちゃんと守ってくれてるの」
バンパイアからとは流石に言えなかった。
「だからこそ、心配なんですか?悠人さんが」
「うん。いつも毒舌で鉄仮面みたいな顔なのに、その日だけは違った」
情欲に溺れて、悶える悠人は壮絶に色気があった。あれで襲い掛かってくれたならいつでも、身体を差し出すつもりだった。だから、彼の雄を象徴するものに布越しではあるが触れてしまったのだ。
「苦しんでいるんですか?」
貴方のせいで、とは言えずただ頷く私。
「アキちゃん。僕、お見舞いに行ってもいいですか?」
何を察したのだろうか?突然のお願いに硬直してしまう。
「実は、悠人さん美術館から出た時からちょっと熱があったみたいで、ぼうってしてました。無理矢理連れていった僕に責任があります」
「なら尚更駄目よ。今、ハルちゃんは貴方に会いたくないの」
「やっぱり僕、嫌われちゃったんですね…」
あからさまにがっかりする将斗に、さらに疑惑が湧いてくる。
「あのさ、将斗。ハルちゃんのこと気になるの?」
「そりゃ、気になりますよ。アキちゃんも対応できないんでしょ?」