STORY

□第一章 黄金の三日月
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「私、一度のみならず何度もヴァンパイアに狙われてるのよね」

「隷属しないのか?」

「うん。一度や二度じゃ、隷属しないんだってさ。だけど、何度も何度も吸血されたら、しまいに失血死しそうだから怖いのよ」

俯くアキ。

「つまり元気になったら、あんたを付け狙うヴァンパイアを追い払えばいいんだな」

要するにボディーガードの依頼だ。ヴァンパイアに依頼するなんて、つくづく変わった奴だ。

「ありがとう」

しかしこの容姿では、ヴァンパイアだと丸わかりだ。そっと胸ポケットから、カラーコンタクトを取り出し、目に装着する。

「これなら大丈夫か?」

「えぇ。ただ牙はどうしようもないかしら?」

「いや、満月の夜以外は抑えることができる。それに元々は人間だったしな。ただ…」


ひょんなことから西代アキとの出会い、夜は彼女を狙うヴァンパイアのハンター業、彼女がいない昼は、生前(ご主人様に飼われる前の人間時代)の趣味だった絵画を描く日々を繰り返す。私の描く絵は男性ばかりだと指摘されて、やはり自分の心にはご主人様が色濃く残っていたようだ。誰だと聞かれたが、正直に答えると傷が深まるため『尊敬する人』だとぼかしておいた。その絵を抱えることすら今の私には辛い。それならば描く必要がない筈だ。だが体が完全に彼に染まってしまっている。それを知ってか知らずか彼女はオークションで売れば、その人の目に留まるのではないかと言った。それならば売ったほうがいいなと思い、売却することにした。私にしては素直に従ったほうだ。

だが、そんなもの好きな人間などいない。1週間たっても1か月経っても、1年経っても買い取られる気配がなかった。やはり趣味程度では買ってもらえないのだろう。その作品のことは忘れることにした。相変わらず、ご主人様が私を探す気配もない。完全に捨てられたのだ。あの日を思い出すとどうしても泣きたくなる。その時は、アキに1人にしてほしいと、わざわざこちらからお願いしなければいけないほど、心が脆弱なものになってしまう。脆弱なものになればなるほど、反比例するかのごとく体は芯から熱くなるのだ。

1人になりたいという願いはほとんどこのためだった。

生前の頃は、性欲は人より淡白だったはずだ。というより、見た目で集る集団の女を見るたび嫌気がさしていた。それでも自分は異性愛者なのだと信じていた。

だが、ご主人様と出会い本来官能を引き出すべきところではない器官を、無理矢理こじあけられて、漸く自分の性癖を思い知ったのだ。それに初めてで強姦まがいなことをされたにも関わらず、彼と私の相性は抜群だった。
開発されることで、私がみだらで、はしたない人間(だった)だということを鏡越しで、彼のまなざしで思い知らされた。だが、それが開花のきっかけだったのだ。だから、ひどく恥ずかしい要求をされても、最終的にはなし崩しに抱かれるのだ。それが急になくなるというのは、私にとっては拷問に等しい。1か月に一度の逢瀬が、今では1か月に一度の相手のいない空虚な発情期となってしまったのだ。

そんな切ない日を今日も送っていると、いきなりアキの声が部屋中にこだました。
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