STORY

□第ニ章 愛しき残像
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その後、将斗が何かを話していたことは分かっていたが内容は耳に入ってこなかった。それほどあの揺れる睫毛の下の三日月の瞳に、見入ってしまったのだ。

だが、それと同時にしばらく治まっていた例の症状が再発してしまった。そう、発情期だ。

美術館を出ると、他の用事を思い出したと言って、一目散にアキの家に帰る。帰った後、シャワーを浴びたが全く治まらず、むしろ酷くなる一方だ。シャワー室から出ると、運悪くアキとかちあってしまう。

「し、しばらく、引きこもるぞ」

「もしかして、マサがまた無神経なことを貴方に言ったの?」

「そういうことにしておいてくれ。二度とあいつを私の目の前に近付けるな」

そうでなきゃ、私の理性が完全に失われてしまう。

「ねぇ。ハルちゃん。夕食はどうしようか?」

「アトリエの部屋の前」

「…まさか、貴方」

流石アキだ。長年一緒に住んでいるだけある。将斗が無神経な言葉を言ったところで、私が引きこもったりなんかしない。むしろ、返り討ちにする。

「それ、手伝おうか?」

まさかの提案に、耳を疑う。

「あんた、どういう意味で言ってるのか分かってるのか?」

「だだだって、つらいんでしょ?」

そっと、腰に巻いていたタオルを外される。外気に晒された愚息は痛々しいほど張り詰めていた。

「嫌だ。見ないでくれ…」
いくら、異性に恋愛感情はなくとも、この状況は恥ずかしすぎる。

「だ、大丈夫よ」

「アキにまで、見られたくない。こんな浅ましい私」

せめての羞恥心で、タオルを巻きなおす。性欲がおさまりそうにないのは勿論だが、何故か留めなく涙が流れてくるのだ。

「頼む。将斗には内緒にしてくれ」

「え?将斗なの?将斗にくら替えしちゃったの?なんで、貴方、子犬扱いしてたじゃないの。そういう対象に見てなかったじゃないの」

私の恋愛対象の人物が受け入れられないようだ。いや、私自身戸惑いを隠せない。

「あの瞳を見たんだよ。そしたら黄金色してたんだ」

そう、私は霰のない姿を幼き頃の将斗に見られていたのだ。あれが私だったと明かせばあいつはどんな反応するか、恐ろしくて身の毛がよだつ。

「あの瞳で見られてしまうと、何故か目が離せない。恥ずかしいのに、顔も目も反らせなくなる」

「でもさ、当時、貴方の肢体を見たのが将斗って確証はないわよね?たまたま同じ色の瞳だっただけよ。ね?他人の空似だよ絶対」

そっと、アキは私の愚息をタオルごしに撫でる。

「頼むから、やめろ。女神がそんなことをするなっ…」

「女神女神って、私は人間なのよ。貴方が苦しむのなら、解放させてあげたいの」

何故、そんなに切羽詰まった顔をするのだろうか。

「そんなの自分で、できるから、するんじゃない。」

「貴方の切ない声、ドアごしに聞いてた。泣きそうで悲しくて、でもどうしようもない貴方を盗み見てた」

寝室で一人慰めていたあの時、アキは息を潜めてドアに耳を当てていたのだ。

「あの子だけは絶対ダメ。お願い!!成り代わりなら喜んで引き受けるから」

「将斗を汚す気はさらさらねぇよ。でもあんたを、成り代わりにする気もない。そういう感情ないんだよ、どう頑張っても」

「…知ってるよ。でなきゃ私を抱いたよね?今。でも抱きたくないんでしょ」

「あぁ、アキを抱くことは一生ない。それに私は抱かれる専門だ」

「まさか将斗に抱かれたいの?」

目が点になる。想像すらしたことがないのだ。

「抱かれたいのは、今も、ご主人様ただ一人だから。今日は体が誤作動を起こしてるだけだ。あんな子犬に発情期なんて笑っちまうだろ?」

うまく笑えず、涙が未だに止まらない。

「こんな浅ましい私、あいつに知られたくない。あの瞳に見つめられる度、見られた夜を思い出してしまうっ…」

これからずっと、それによって私の体は発情期を引き起こすのだ。せっかく治まった発情期だが、今回は前回よりも一層激しい。今にも溢れだしそうだ。たまらなくなってアキの制止も聞かずに駆け上がる。

その後は、ティッシュ箱を半分以上消費するまで、愚息を弄び、白濁を出し続けたのだ。しかし、前は治まっても後ろの疼きが治まらない。かつてご主人様からいただいた医療用器具を使って、解放されることのない快楽に貪る羽目になってしまった。

その翌日、疲れ切った私が目覚めたのはお昼を過ぎたところで、ぐちゃぐちゃになった感情の残骸で散らかったティッシュの山は綺麗さっぱりとなくなっていた。アキが片付けたのだろう。そう思うといたたまれなくなる。
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