Sun&Moon


□Episode 31
1ページ/4ページ










程なくして『総理候補の代議士、逮捕』の文字が新聞の見出しを飾った。

一面には、〇〇の母である澤村由美がマンションに隠していた金は偽札で、代議士である当時の夫が、その金を資金源に警察官僚と結託し数々の犯罪に手を染めていた…という衝撃の内容が綴られていた。


〇〇の母は証拠となる偽金を、命を張って隠した。それは無実の罪を着せられた世良会長と、事情を知りながら生き残った東城会の幹部、真島大吾を守るためだったんだと思う。

代議士とヤクザじゃ、世間的には明らかに後者が悪者だ。事件に間違った形で決着が着いてしまえば、真実は闇に葬られてしまう…そんな最悪の結末を、由美は案じていたのかもしれない。


事件が公になったことで、〇〇の父である代議士のイメージは地に落ちた。清廉潔白を武器にしていた彼の逮捕は、世の中に大きな衝撃を与えたに違いない。その証拠に、メディアは彼が関わった事件を次々に取り上げ、連日連夜飽きることもなく伝えている───














慶「〇〇ちゃんの様子は、どう?」



事件以来、音信不通だった小山が突然訪ねてきた。

小山が心配する通り、〇〇は憔悴しているようだった。実の父の存在は分かったものの、その正体が母親を殺した犯人だったなんて…〇〇には受け入れ難い事実だろう。

気晴らしになればと少しの時間だけ外出するのは許してるけど、普段と変わらず俺に向けられる笑顔がどこか痛々しく見えた。

一番近くにいるのに俺に出来ることなんか何もなくて…やっぱり、父親の件は内々に処理するべきだったかと、後悔せずにはいられなかった。



増「〇〇は、まぁ…想像してる通りだよ。それより小山たちは平気なの?警察官僚が偽札作ってたなんて、よく公表できたな」


慶「それもお察しの通りだよ。長年の潜入捜査の成果…って言っても、ぬか喜びはできないな。官僚の中には自殺者も出てるし、まだまだ闇は深いって感じ……そのうち捜査員の俺らも、人知れず消されるかもしれないしねぇ」


ははは、と軽く笑いながら怖いこと言うけど、シゲと小山はしぶとそうだからそう簡単には消されないだろうな…と心の中で呟いた。



増「東城会の方もだいぶ静かになったな。とりあえず現状維持…か」



慶「手越の周りもようやく落ち着いたみたいだね。隠居した元幹部たちが手伝ってるんだって?」



増「元気なおじいちゃん達がねぇ、なんだか張り切っちゃって。手越は不本意みたいだったけど…まぁ、それが一番手っ取り早いだろうと思ってたよ、俺は」



慶「ふふっ、まっすーは影の功労者だね。その一声で事が済んじゃうんだもんな」



ほんとすごいよ。と、柄にもなく俺を褒める小山に、なんだかくすぐったくなる。


増「だいぶ伯父さんに頼ってるとこあるけどね」



慶「変わったな、まっすー。ほんとに手越のお兄ちゃんみたいだ」



増「そうもなるだろ…あいつ無茶ばっかしやがって。〇〇がどれだけ心配してるか」



慶「そう、そのことなんだけどさ、〇〇ちゃんと父親の関係は、記者の連中には流してないから。心配しないでってちゃんと伝えてよね」



増「ははっ…当たり前じゃん?その情報いじったの、誰だと思ってんの」



慶「あははっ!ごめんごめん、そうでした。あ…まっすー、そろそろ時間でしょ?〇〇ちゃんにも会いたかったけど、また顔出すよ」



増「ん。来たことは伝えとく」



ティーカップに残っていた紅茶を飲み干すと、じゃあねと言って小山はすぐに出て行った。
珍しく皿に乗せられたケーキには手もつけずに…



俺じゃなくて〇〇に直接言いたかったんだろうけど、今は会わせたくなかった。








───────…





増「〇〇、そろそろ時間だよ」





すっかり薄暗くなった離れに迎えに行くと、〇〇は庭に出て空を眺めていて。俺の呼びかけにゆっくり振り向き返事をした。




増「車、準備できてるから。一緒に行こ」



「うん…ありがとう。いつもごめんね、付き合わせちゃって」



優しく微笑んで見せるその瞳には、微かに憂いが見える。



ここ数日、ずっとこんな感じ。



ハタから見たら、たぶんいつもと変わりない。落ち込んでる風でもないし見た感じは元気だ。



けど、心ここに在らず…



手越からもずっと音沙汰無しで、〇〇はマスターからそれとなく様子を聞いているようだった。


東城会は新しい組長を迎えて生まれ変わろうとしてる。だけど、手越がまだ安全とは言えない場所に身を置くことを〇〇は心配してるんだ。



そんなの杞憂に過ぎないけどな。手越は言葉通りに東城会を再建して、また元の平和な生活が戻ってくる。




あいつはいつも有言実行。
言霊でも宿すように、思ったことを実現させていく…周りがなんて言ったって、言うこと聞くような奴じゃないからな。
俺に出来るのは、せめて危ない目に遭わないように見張ることくらいだ。




───それは〇〇のためでもある。そう信じていた。













.
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ