刀剣乱舞二次創作

□桜の季節に1
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暖かい春風が、二人の頬をそっと撫でた。青く澄んだ空の、満開の桜の下。幼く美しいふたりが中睦まじく遊んでいた。黒髪の凛とした面立ちの少年は三日月宗近。髪だけではなく、肌も真白く桜色の唇が特徴的な少年は五条鶴丸。誰もが、このふたりは恋仲のようだ、とても愛らしいと思っていた。だがその情景は、とある瞬間に崩れていった

「えっ・・・鶴が、死ん・・・だ・・・?」

まだ齢10歳の少年には、あまりにも衝撃的過ぎて。三日月はあまりのことに、呆然として動けなかった。なんせ、死因が死因だ。鶴丸の母はもともと体が弱く、鶴丸を生むと同時に衰弱し、死んでしまった。父はそんな鶴丸を悪魔の子だと忌み嫌い遠ざけていたのだが、ついにその父が鶴丸を絞め殺したのだという。もちろんその父親は警察に引き渡され、刑務所入りしたのだが三日月は悲しみの沼から這い出ることは出来なかった。花のように穏やかにふんわりと笑っていた彼から、笑顔が消えた。いや、実際にはいつも笑顔でいたが心からは笑わなかった。そのまま小学校、中学校を卒業して名門高校に入学した。

「入学式にそのような顔は似合いませぬぞ」

入学式が終わり、迎えに来た小狐丸がいつもの微笑をたたえながら言った

「なぜお前がここにいる?迎えは、石切丸だと聞いたが」
「石切丸に急な仕事が入りましてね・・・私では不服でしたか?」
「そうだな、不服だ」
「・・・そこは嘘でもそんなことは無いと言うものですよ」
「冗談だ。本気にするな」

三日月の家は、三条派という陰陽道の一家である。代々受け継がれる力と風習は、三日月家の当主に継がれるのだ

「まったく・・・そろそろ、忘れてもよろしいのではないですか?」
「何をだ」
「五条の子ですよ」

皆鶴丸の事は五条の子と呼ぶ。そして、忘れろと。三日月家次期当主として自覚をもてと

「なぜ皆、そのように鶴のことを忘れたがるのだろうな」
「それは私の口からは言えませんよ」

くっくっく、と何を考えているのかわからない笑顔で笑う小狐丸を、三日月は苦手としていた。目の前をひらりとした桜が舞い、思わず空を見上げた

「鶴・・・」

そのつぶやきは春風に消えていった。空は、いやに澄んでいた

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