旧小説

□ЯёD
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「やぁ、亜多夢君は仕事かい?」

一人で歩いていれば後ろから声をかけられた。

「…MASTER」

彼は僕達の上司にあたる人で素性は一切謎。

わかるのは「MASTER」と言う呼び名だけ。

「仕事ですよ。知ってるくせに聞かないで下さい」

何せ仕事を与えてくれるのは彼なのだから。

なのに僕が苛立つのを知った上でMASTERは、一人でいればそう聞いてくる。

「何の用ですか」

きつい言い方をしてみたがMASTERは気にする様子もなく笑って言う。

「好きな人に話しかけるのに理由なんている?」

軽口でそう言うMASTERには嫌気が差す。

それが本気か冗談かは別としてMASTERはそう言い僕に構ってくるのだ。

決まって亜多夢のいない時に。

「…失礼します」

そう言い残し彼の方に背を向ければ突如暖かなものが首筋にかかる。

「離れて下さい」

MASTERに後ろから抱き締められ身動きが出来ない。

MASTERの吐息が首筋に触れる。

嫌だ…亜多夢

「伊吹、君はもっと周りに気を付けなさい」

MASTERが耳元で囁く度に息が耳にかかる。

身体が変になる…

「周りではなくMASTERに、でしょう?」

突然聞こえた声と一緒に身体が引っ張られる感覚。

そして自分が消えるときに起こる一瞬の吐き気の後には僕は亜多夢の腕の中にいた。

「おや、早い帰りだね」

MASTERの微笑みに亜多夢は鼻で返事をすると一枚の紙切れを彼に投げつけた。

「No.52317。クリア」

「ふむ」

MASTERの短い返事を聞くと亜多夢は僕を抱き抱えたまま身を翻す。

そして消える直前にMASTERと目があった。

『またね』

頭に響いた信号に嫌になりMASTERから顔を背けようと亜多夢の胸に顔を擦り寄せた。

そして自分達が消えた後。

「本当…どうやったら手に入れられるかな」

MASTERがクスクスと笑い、暗闇の向こうへと歩き出した。

暫く続いた足音の後は続く静寂のみ。
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