旧小説

□ЯёD
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「なぁ伊吹」

伊吹(イブキ)と呼ばれて顔をあげる。

「何?」

「お前さ、いつから俺の傍にいる?」

あぁ、またその質問か。

そう思いながらも、しっかりとした口調で言った。

「ゆりかごから、墓場まで」

生まれた時から一緒。

て言うか生まれる前からも一緒。

そして死ぬときも一緒。

揺るがない、事実。

「…亜多夢は?」

そう返せば亜多夢(アタム)は微笑んで。

「それはもちろん」

そう言って唇を「ゆ」の形にした時だった。

「おい、亜多夢」

突如現れた男は亜多夢を呼んで、自分達の大切な儀式をぶち壊してしまった。

僕は男を睨み付ける。

でも対して反応も変わらず男は淡々と用件だけを話始めた。

「仕事だ。No.52317」

つらつら零れるように男が呟きながら、手には楕円形の光がどんどん横に伸びてゆく。

やがて光が形を成し、現れたのは大振りの鎌。

「行け」

男は亜多夢に鎌を渡すと身を翻し忽然と消えた。

「まだ途中なのによ」

途中とは、儀式のこと。

アレは自分達の存在確認。

そして、愛の杯。

「行ってくるわ」

「うん。墓場まで」

「おう」

墓場までと言えば、自分達にはどんな意味なのか通じる。

つまりは「死なないで」だ。

亜多夢も忽然と消えた後に僕は小さく呟いた。

「どうか君と、墓場まで」


叶わないと、知りながら。
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