遠き夜空に夢は落ちて

□第二章 人を殺して死ねよとて
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* * *

「太宰が行方不明ぃ?」

探偵社で、僕は国木田さんに緊急事態を伝えていた。
太宰さんが、居ないのだ。

「電話も繋がりませんし、下宿にも帰っていないようで」

ってあれ?国木田さん?乱歩さん、賢治君?如何してそんなに白けた顔をして居られ・・・

「また川だろ」

軈て珈琲を口に含み、国木田さん。

「また土中では?」

続けて賢治君。

「また拘置所でしょ」

更に乱歩さん。
太宰さんの扱いって一体・・・

「しかし先日の一件もありますし・・・真逆マフィアに暗殺されたとか・・・」

「阿呆か」

加えて云った所で、国木田さんに一蹴される。

「あの男の危機察知能力と生命力は悪魔の域だ。あれだけ自殺未遂を重ねてまだ一度も死んでない奴だぞ。己自身が殺せん奴をマフィア如きが殺せるものか」

そう締めくくって、国木田さんは珈琲をソーサーに置いた。

「でも・・・」

「ボクが調べておくよ」

その時、ドアが開く音と共に声がする。其方を振り向くと、谷崎さんが小さく片手を上げていた。

「谷崎さん!あれから大丈夫ですか?」

あれから。横浜連続傷害事件の事である。谷崎さんは事件の首謀者の少年に撃たれ、重症を負っていたのだ。

「うん・・・大丈夫」

返答の割は、何故か疲れ切った様子で、谷崎さんは云った。

「与謝野先生の治療の賜物だな」

国木田さんが立ち上がる。それから谷崎、と眼鏡を上げて続けた。

「何度解体された?」

解体?
国木田さんが放ったよく意味の判らない問いに、しかし谷崎さんはサーッと青ざめていく。

「・・・四回」

躰中の全ての血が抜かれたかと思われる程真っ青になった後で、谷崎さんはがくりと項垂れて云った。
あー、先刻の太宰さんの時とは打って変わった心底気の毒そうな表情で国木田さん達は同じ様に項垂れる。
・・・?

「敦君。探偵社で怪我だけは絶ッ対にしちゃ駄目だよ」

谷崎さんは蹲り、頭を抱えて震える。
・・・?

「今回は子供相手も油断していた谷崎が悪い」

腕を組み、国木田さんは壁にもたれた。
続けて乱歩さんが人差し指を立てて云う。

「マズいと思ったらすぐ逃げる危機察知能力だね。例えば・・・」

それから乱歩さんは懐中時計を開いた。

「今から十秒後」

「おや、敦だね」

新たな声がする。与謝野さんと、一昨日武装探偵社に入社した女性───逢為灯さんが居た。

「与謝野さん、逢為灯さん」

彼女達二人は、すぐに意気投合した様だった。既に逢為灯さんは、与謝野さんを「晶子さん」と呼ぶ間柄になった程だ。

「おはよう、敦君」

逢為灯さんが微笑む。

「どっか怪我してないかい?」

唐突に与謝野さんは尋ねてくる。

「ええ、大丈夫です」

そう答えると、与謝野さんはふいっと顔を背けて云った。

「ちぇっ」

・・・?
与謝野さんの後ろの逢為灯さんも、少し不思議そうにしていた。

「ところで」

与謝野さんがそう話を切り替え、辺りを見回す。

「今から逢為灯と買い出しに行く事にしたから誰かに荷持を頼もうと思ったンだけど・・・」

そして腰に手を当て、彼女は僕を見た。

「え?!」

慌てて後ろを振り返る。
つい先刻まで居た国木田さん達四人が・・・居ない?忽然と、消えてる?

・・・危機察知能力って───これ?
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