遠き夜空に夢は落ちて

□第一章 夢に彷徨い、そして出逢う 第三楽章 The Rebellion of Toy Soldiers
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「・・・否、まぁ、そうだよな。乱歩さんが待って下さる訳ないよな」

眉間を摘んで国木田さんが云った。・・・うん、

「確かに」

同調する声は谷崎さんと同時になった。

「僕ももう行ってきていいですかー?」

全く空気を読んでいない賢治君。

「お前は待て」

既に疲れ切った様子で止める国木田さん。まだスタート地点なんですけど。
しかし、僕が不安になり掛けていた所で、すぐに国木田さんは真剣な威厳のある表情になって云った。

「乱歩さんは、乱歩さんなら一人で大丈夫だろう。推理、という形とは少し違うがこういった遊戯であれば彼はきっと百人力だ。・・・俺達は俺達で動くぞ」

「はい!」

頼り甲斐のある彼の言動に、僕は力強く返事をした。

「バラけすぎるのも心許ないので二人一組で動く。賢治は俺と一緒に来い」

どんな奔放な事を仕出かすか判らん、と続ける声が聞こえた気がしたのは錯覚だろうか。

「はーい!」

賢治君はそんな事に全く勘付いていない屈託の無い返事をする。

「谷崎は小僧と一緒に動け。先ずはゴールまでのルートを確認してくれ」

「はい!」

谷崎さんと僕は了解する。

「『地図』は逐一確認しろ。間違っても勘などで動き回るなよ。そんなのは乱歩さん位にしか出来ない所業だ」

「判りました」

先刻から云っている「地図」と云うのは、武装探偵社に送られてきたコピーの迷路を更にコピーしたものだ。突入前に一人ずつ受け取った。それらには、スタートからゴールまでのルートを赤線で描いておいている。これでゴールに到着する事が僕等は出来る。僕等は。そう、何より今回大事なのは被害者の救出だ。僕等だけでゴールしても意味が無い。

「だが、もし先刻乱歩さんが仰ってた事が正しく思えた時は柔軟に行動しろ」

先刻というのは突入前の話だ。

「はい」

「後は・・・何とかして合流出来る方法、せめて居場所は判る様にしたいものだが」

そう云って国木田さんは壁に向かって、ペンを押し当てる。壁に軌跡を示す考えだろう。

「・・・印さえも付かない様だな」

それも不可能であると判った国木田さんは、手帳に何かを何貢かに渡って書き出した。

「六時間。六時間ごとに此処で落ち合おう。計四回。次は・・・十二時四十三分だな。それから谷崎、これを」

国木田さんが手帳の貢を一気に数枚引き千切り、谷崎さんに向かって放り投げた。それは五つの榴弾になった。

閃光榴弾(フラッシュバン)だ。聞こえるか如何かは判らんが。もし想定外の事態が起きたら知らせろ。使い方は判るか?」

はい、と谷崎さんは頷く。

「全く、この時点で手帳を五貢も消費だ。犯人め、絶対許さん」

また溜息を吐いた後、国木田さんは力を込めて云う。少し御門違いな気もするが・・・

「っと、いかん。長話は此処までだ。・・・何があっても全員を助け出して帰るぞ」

「はい!」

僕等は力強く返事をする。

「行くぞ!」

* * *
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