遠き夜空に夢は落ちて

□第一章 夢に彷徨い、そして出逢う 第一楽章 羽を失った天使
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「与謝野先生、しかし・・・」

国木田さんが心配そうに云った。

「だけど問題があるンだよ」

与謝野先生と呼ばれる彼女は、御構い無しに私に云った。

「太宰を元に戻すには、触れないといけないんだろう?」

「・・・はい」

私は頷く。

「だったらその異能、太宰には通用しない」

・・・え?

「如何いう事ですか」

「太宰の異能力は」

「与謝野先生!」

もう一度、今度は大きな声で国木田さんが与謝野さんを遮った。

「仮に敵じゃなかったにしろ、部外者の人間に異能の内容を教えるは危険です!」

それはそうだ。私も先刻は身を危険に晒してでも、と云う気持ちで彼等に自分の異能を説明したのだ。
流石に与謝野さんも、その忠告には少し難色を示した様だった。

「・・・まァ、奴の異能と戦闘能力は教えたって如何する事も出来ないだろう。説明しないと話が進まないしね」

しかし、矢張り彼女の選択は変わらない様だった。それを聞いて、国木田さんは大きく溜息をついて反論を諦めた様だった。国木田さんも認める、と云う事は、太宰さんは本当に優れた人なのだろう。

「太宰の異能力は、対象に触れる事で『あらゆる異能を無効化する異能』だ。だから触れないと発動しない異能なら、ソイツには効かないんだ」

・・・なんて事だ。今のが今日で一番驚き絶望した事かもしれない。だけど成る程。確かに思い当たる節がある。夢の中で初めて会った時、私が目を覚ましてしまったのは彼に触れたからだったのか。
じゃあ、如何すれば・・・。此処に来て本当に詰んでしまった。

ガチャリ。

その時、ドアが開く音がした。探偵社に、誰かが入ってきた様だった。静かな足音が、此方に向かってきている。
現れたのは、白髪で和装の、壮年の男性だった。

「社長!」
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