遠き夜空に夢は落ちて
□第一章 夢に彷徨い、そして出逢う 第一楽章 羽を失った天使
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倒れかけた彼女の躰を敦君が受け止めた。顔は真っ青で、息を切らして酷く震えている。
「何処か休めそうな所へ運ぼう」
「はい!」
彼女の両腕を私と敦君の肩に回す。可成り軽い。人混みを避けながら運び出した。
「大丈夫ですか?」
水を買ってきます、とこの場を後にした敦君を見送って、路地裏の壁に座らせた彼女の顔を覗き込んで問い掛ける。
矢張り可成りの美人だ。是非私の心中相手になってほしいくらいだ。と、呑気なことを言ってる場合ではなさそうか。
様子は一層悪くなっているように見える。特に震えがひどい。
しゃがみ込み、自分の砂色の外套を彼女にかけ、背中をさする。動悸や震えを一層手に感じられた。
いや、また酷くなっている。更に彼女は小刻みにかぶりを振り出していた。その様子は何かに怯えているようにも見えた。
不意の事であった。
彼女が顔を上げた。
何か声を掛けようとした所で彼女と目が合う。
真っ暗な夜空、否、最早闇に近いような色をした瞳に呑み込まれる。
グワン。
唐突に、私の頭の中がそんな音を立てて一瞬揺らめいた。
「ぐっ・・・」
思わず頭を押さえ、彼女の背中から手が離れる。
・・・
・・・何だ、今のは。
少しの間止まってしまい、視線を感じて改めて彼女を見る。
彼女が私に向けていたのは明らかに恐怖の表情であった。顔色、呼吸、震え全てをこの上なく悪くして、冷や汗をかいていた。
「え・・・?」
私が小さく声を上げるのとほぼ同時に、その表情のままガバッと彼女は立ち上がった。そして突然来た道とは反対側の表通りの方へ駆け出す。
「お、おい!待て・・・」
グワァン!
「っつ!」
まただ。先刻より酷い。立ち上がれなくなる。一体これは何だ。目眩、いや少し違う。まるで、酷い眠気のような・・・
落ち着いた頃には彼女の姿を完全に見失ってしまった。前には、彼女の躰からはだけ落ちた私の外套だけが残っていた。