遠き夜空に夢は落ちて

□第四章 その目に映る、この目に映る
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「うん、随分と格調高そうな館じゃあないか」

「・・・いかにも、といった所でしょうか」

目の前にそびえ立つ建物を私と逢為灯ちゃんは仰ぐ。二階建て程と思われる西洋造りの建の屋敷であった。
・・・先ずは普通に客として潜入する計画になっている。


「行こうか」

私達は玄関へと向かった。






「ようこそいらっしゃいました。本会場にいらっしゃるのは初めてで御座いましょうか?」

「ああ」

「はい」

商売用の笑みを浮かべ恭しく応対してきた受付に素直に答える。

「左様ですか。お越し頂き、誠に有難う御座います」

深々と頭を下げた受付は、続けて顔を上げて云った。

「本会場は、武器、金物、火器、尖ったもの、液体の持ち込みは厳禁となっております。入場前にはボヂィチェックが御座いますので予めご容赦下さい」

まあ、当然だろう。攻め入れられてしまっては困る。例えば軍警とか、我々みたいな存在から。
と、事前に予測していた為、そういった類は持ってきてはいない。勿論逢為灯ちゃんのナイフもだ。
ボヂィチェックを問題なく抜けて、無事会場に入る事が出来た。内装も豪華だ。後方の端の方の席に私達は座った。割と早めに来たのだが、既に客席は半分以上埋まっている。
・・・却説。幕開きは此処からだ。


「皆様、本日もこのオークションへとお越し頂き、誠に有難う御座います。開始まで後30分となりました、今暫くお待ち下さい」

会場に放送が入る。残念ながら、今日は其方の開始はやってきはしない。

「さあ逢為灯ちゃん、作戦開始といこうか」

前を向いたまま、隣の逢為灯ちゃんに小声で声を掛けた。が、反応がない。
首を動かして横の席を見ると、下を向いた彼女の拳が市から強く握り締められ、小さく震えていた。

「・・・逢為灯ちゃん」

それに自分の手を重ね、もう一度声を掛ける。緊張、とか簡単な、名前が付けられる様な感情をその手が握りしめているのでは決してないと、私は知っている。誰よりもよく知っておかなければならなかった。
逢為灯ちゃんが気が付いて顔を此方に上げる。

「あ・・・すみません。ちょっとぼーっとしてました」

慌てて彼女は、ぎこちなく笑った。

「作戦実行、ですね」

そしてすぐに仕事の目になって続ける。

「・・・うん」

「じゃあ、先ずは。よろしくお願いします」

「ああ。行ってくる」

そう告げて私は席を立って、廊下へと続く出口へと向かった。
扉を開きつつ振り向いて見た逢為灯ちゃんの横顔は、とても小さくて、寂しそうだった。

 * * *
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