遠き夜空に夢は落ちて
□第一章 夢に彷徨い、そして出逢う 第二楽章 正解はまた何時か
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「却説・・・逢為灯。信用するとは云え、アンタの異能力の内容は教えて貰うよ」
仕事がまだ残っているので失礼する、と社長が去った後、妾は改めて目の前の女性に声を掛けた。
妾は与謝野晶子。異能者集団、武装探偵社の専属医だ。
武装探偵社に突如現れたその謎の女性、枕伽逢為灯。晴れた夜空の色の美しい瞳と、その下の隈が印象的な彼女は、太宰に異能を掛けた張本人だった。連続傷害事件の犯人、と云う疑いもあるが、彼女はそれとは無関係であると妾は判断していた。命懸けで身の潔白を示し太宰を助けたいと云う彼女の意志が、信じたいと思わせたからである。虫唾が走る程に。
「勿論、お話し致します。ですがその前に・・・」
すぐに彼女は頷いたが、その後にそう続けた。
「先ず一度、太宰さんを探しにいってもいいでしょうか?夢の中に」
確かに、それも事を争う話だ。
「判った、行ってきな。アンタ達もそれでいいね?」
国木田達に確認する。皆、頷いた。
「・・・銃、向けておいても構いませんよ」
苦い笑みを浮かべながら、彼女が妾達に云う。本当に、呆れる程の本気っぷりだ。彼女はきっと・・・
「・・・否、止めておこう。社長が認めたんだ。もう銃を向けてまでお前を警戒する気は俺にはない」
国木田がそう答えた。彼は社長を厚く信頼しているのだ。
有難うございます、そう言って彼女は身に付けていたネックレスを外した。小さな時計が付いている様だった。
「それは?」
興味あり気に、敦が尋ねる。その時計を弄りながら彼女が答える。
「アラーム付きの時計です。・・・一時間後に起きます。私の異能じゃ、これでしか起きられないんです。そしてこれは、私の躰から離れていないといけない。・・・此処に、置かせてもらいますね」
その時計のネックレスを近くにあった丸椅子に置いた彼女は改めて、眠る太宰の前に屈む。
「あ、そうだそれから・・・」
何かを思い付いたかの様になって、妾達を見た後、彼女は与謝野さん、と妾に声を掛けた。
「その手袋、貸して頂けませんか?触れて異能が無効化されてしまうとなると、彼を置いて強制的に戻されてしまいから。連れてさえいれば、手袋越しでも一緒に戻ってこれますので」
妾は了承し、はめていた手袋を外して逢為灯に渡す。
「有難うございます。明日は自分で持ってきます」
礼を云って彼女は受け取った。
「もう、すぐに夢の中に入れるんですか?」
敦が彼女に尋ねる。
「はい。そんな能力なんです。・・・では」
彼女は最後に妾達に微笑み、そしてフッと目を閉じた。本当に、もう眠ってしまった様だ。
「おぉー」
賢治が感嘆の声を上げる。だが、問題はこれからだ。
無事、彼女は太宰を連れ戻す事が出来るのだろうか。