遠き夜空に夢は落ちて
□第一章 夢に彷徨い、そして出逢う 第一楽章 羽を失った天使
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社員の何人かが、そう声を上げた。この人が、此処武装探偵社の社長なのか。確かに風格がある。
「国木田から話は聞いた。・・・太宰は」
「・・・まだ、目を覚ましません。ずっと眠り込んでます」
社長さんの質問に国木田さんが答える。そうか、と重く呟いた後、私に目を遣った。
「其処の女性は何者だ?」
単純な事を質問されただけなのに、強く射竦められた様になる。だけど正直に答えなければ。頭を深く下げて言った。
「私が太宰さんに異能力を掛けたんです。・・・本当に申し訳ありません。それで、彼を元に戻しに此処に来ました」
「・・・ほう」
低い声と睨みつける目。その一言だけで国木田さんや与謝野さんよりも、ずっと恐ろしい威力を感じた。
「社長、彼女は例の事件の犯人ではないし、妾達の敵でもないと思います」
与謝野さんが社長さんにそう云ってくれた。それを聞いて、社長さんは今度は品定める様な目で私を見つめた。
改めて、彼にもお願いしよう。
「お願いします。私に彼を任せて下さい」
社長さんにもう一度頭を下げた。
「だけどアンタ。如何するんだい結局」
与謝野さんが聞いてきた。それはもう、こうするしかない。
「・・・無理矢理、探します」
その答えに全員が、静止した。そして、与謝野さんがフッ、と笑った。
「フフフ!ねェ社長、とても敵には見えないでしょう?」
一頻り笑った後、真面目な顔になって彼女は続ける。
「彼女に任せてやって下さい。・・・私が全責任を負ってやってもいい」
其処まで云ってくれるとは。酷く嬉しく、有難い気持ちになる。
「あの」
それから敦さんが声を発した。
「僕も、彼女を信じたいです」
彼も私を受け入れてくれた様だった。
「・・・お願いします」
私からも、もう一度社長さんに頼んだ。
頭を下げていても、私を見定める社長さんの鋭い眼光を感じられる。
その目で私を暫く凝視した後、やがて彼は言った。
「判った。・・・太宰を頼んだぞ」
・・・よかった、認められた。
「有難うございます!」
また、頭を下げた。
「貴殿。名は何と云う」
社長さんが尋ねてきた。そうだ、色々あり過ぎて彼等にまだ云えてなかったんだ。
顔を上げて、彼等を見回して云った。
「枕伽、逢為灯です」
───これが、私と武装探偵社の出逢い。