遠き夜空に夢は落ちて

□第一章 夢に彷徨い、そして出逢う 第一楽章 羽を失った天使
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「まったく何度止められたら懲りるんですか貴方は!」

昼前の横浜の街の雑踏の中を歩きながら私は敦君に説教をされていた。つい今し方まで、二十階建てのビルヂングから飛び降り自殺を試みていたからである。手摺に手を掛けた所で敦君がやってきて失敗に終わってしまった。

「うーん、死ぬまでかな?」

「それもう手遅れじゃないですか!?」

敦君の切れ味の良いツッコミ。

「あ、それもそうか。ははは」

「笑ってないで少しは反省してください!」

私の名は太宰治(だざいおさむ)。自殺主義者であり、異能力集団───「武装探偵社(ぶそうたんていしゃ)」の社員の一人である。武装探偵社の仕事は文字通り探偵だ。と言っても、猫探しだの不貞調査だのといった呑気なものではなく、切った張ったの軍や警察な頼れないような危険な依頼を調査する探偵だ。そして社員は多くが異能の力を持つ「能力者」である。

「社員の皆さんが呆れ果ててるのも分かりますよ!」

私の隣でツッコミ疲れたいる彼、中島敦(なかじまあつし)君も、白虎に変身する異能、「月下獣(げっかじゅう)」の能力者であり、武装探偵社の新入社員だ。

「えー、じゃ敦君は見捨てないでよ?」

「貴方が自殺嗜癖(マニア)を止めてください」

そのときフードを被った一つの人影とすれ違った。
私が思わず振り向いてしまったのは、その深く被ったフードの中からでも伺われた美貌に興味が湧いたのと、それだけでなく何処か気になる所を感じさせられたからであった。
歩調を緩め目で追う。

一寸(ちょっと)聞いてますか太宰さん・・・」

敦君も気づいたのだろう。同じようにそれを見る。
青のフードに黒のワンピース。女性か。それから・・・
足取りがふらついている。

グラッ。

彼女の上体が大きく揺れる。

「あっ!」

敦君がそう叫び、一足先に彼女の元に駆け寄る。私も彼の後を追って急ぐ。
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