もしも当サイト連載小説
『Rose Noir.』が映画化したら…?
ヒロイン役を演じる女優さんなYouと
セブルス役A・リックマン氏でお贈りします!
【15・あいべつ】
まるで雷にでも打たれたかの様な気分でその場に立ち尽くした。アランさんはすぐにベンチから立ち上がってMs.トンプソンへ歩み寄り、ハグと頬へのキスで歓迎している。
…わかってはいるけれど、できれば見たくなかったな
アランさんが楽しそうに笑う顔
私にはきっと向けられることのない
永遠に、手に入らないもの。
「へぇ〜?あなたが噂の、ね」
トンプソンさんは優しそうではあるが、どこかにやけた表情で私の頭からつま先に視線を張り巡らせてくる。……噂の…って何だろう…あまり良い気分ではない。
『…初めまして。お会いできて光栄です』
ビジネスライクに握手を交わした。
「エマよ。この人からお話は聞いてるわ。私も微力ながらこの作品には携わってるの、近い内一緒にやれたらいいわね!」
ハキハキ物を言う人だな…という印象。それからウィンクをしてくれる様な、少女っぽさも。
そうか、アランさんはこういう、はつらつとした女性がタイプなんだ…どうしても考えがそちらに及んでしまう。
「…来てくれて良かったよ、ちょうど話したいことが」
「ええ?何よ、今じゃなきゃだめなの?」
「今、だ。……すまない、ちょっと外してもいいかい?」
『えっ…ぁ、はい』
アランさんがトンプソンさんを捕まえてこそこそ何かを耳打ちしたかと思えば、こちらに向き直った。
私が頷くと、アランさんがもう一度「すまない」と言って二人は廊下の先へと歩き出してしまう。
「ドーナッツ、良かったら食べてね〜!」
トンプソンさんが振り向いて手を振ってきた。
(はぁ………)
私は差し入れの袋を持って、重たい足取りでケータリングスペースへと向かう。
:::
「ちょっと大丈夫なの?何かあった?」
「……それが…」
前回エマに彼女のことを相談してからの、その後の展開を大まかに話して聞かせた。彼女からの拒絶、撮影の中止…
……キスをしたことは、何となく黙っておいた。
「ほらぁ!言ったじゃない、仕事に支障出るわよって」
「私も彼女も撮影には真剣に取り組んでるんだが…」
「監督にはお見通しなのよ。」
「……じゃあ、どうすれば…」
「そうねぇ………解決策は、なくも無いわ。但し諸刃の剣よ?吉と出るか、凶と出るか。覚悟が必要だわ」
いつだってノリの軽いエマがこんなに深刻な顔を見せるとは珍しい。だが今の状態を打開できる術があるのなら…
私は彼女の目を見据えて、頷いた。
「……OK.それじゃあこの後の撮影プランを教えてちょうだい。」
:::
ハリーたちのシーン撮りが終わり、休憩を挟んで再び現場に戻らなくてはならなくなった。私はダンに差し入れのドーナッツを渡してから自分の準備に取り掛かる。
ふと、スタジオの隅でアランさん、トンプソンさん、それから監督が真剣な面持ちで話をしている様子が視界に入った。
(何を話してるんだろう……)
楽しい雑談、という雰囲気ではなさそう。
撮影のことだろうか?だとしたら何故トンプソンさんが加わってるの?私は、呼ばれてないのに……
……だめだ。嫉妬の情に囚われてさっきから心がざわつきっぱなし。
仕事に集中しなくては。……ついさっきまでアランさんに胸の内を明かそうと意気込んでいた気持ちも彼女の登場で削がれてしまったし。
そうだな、とにかく今は…早く仕事を片付けて熱めのシャワーでも浴びたい。そんな気分だ。
とても、トンプソンさんの様な"はつらつさ"なんて今の自分には皆無だった。
:::
3・2・1…アクション!カチーン
グリーンスクリーンをバックに、クレーン操作で箒に乗ったセブルスが3メートルほどの高さから降りてくる。
ツカツカと大股で私の元へ歩み寄り、そして抱き締められ、…………?
なんだろう、アランさんの様子がおかしい。
気のせいかな。
『お、おかえりなさい…どうしたの?』
表情は堅く、眉間のしわが一段と深い。
心なしか顔色も悪く見えるし具合でも悪いんじゃ……色々な心配や不安が頭をよぎるが、カットが掛かるまでは演技を続けなくちゃ。
セブルスがポケットから教員採用通知の紙筒を渡してくる段取りのはず。しかし、じっと見つめ合うばかりでアランさんは一向に動かない。段取り忘れちゃったのかな…いつまで経ってもカットすら掛からないこの状況に、不安と焦りが押し寄せる。
『……セブルス…?』
思わず台本にない台詞をアドリブで呟いた。そこでハッとしたアランさんがようやくゴクリと唾を飲み下してから、おもむろに紙筒をポケットから取り出し差し出す。
……確かに重要なシーンではある。
世界中のhpファンにとって、"スネイプ先生"誕生の瞬間なのだから。しかしそれにしたってだいぶ、…熱のこもった大芝居だ。
私は差し出された筒を受け取り、訝しげに、ゆっくり開いた。さっき休憩中に小道具は確認してあるのだ。確か、ホグワーツ魔法魔じゅつ………
" I LOVE YOU. "
……広げたそこに、手書きの一言だけが記されている。
頭の中は真っ白。
スタッフさん…小道具を間違えた?
いや、アランさんが出番前に自分が使う道具のチェックを欠くなんてことは、ない、はず。
だとしたら、これは……
ポカンと呆けたまま、顔を上げるとアランさんと目が合った。その瞬間、私は、演技のことも撮影のことも仕事のことも、何もかも全部、忘れる。
今私の目の前で、垂れ目を細め柔らかく微笑んでいるのが
……セブルスではなくて、"アランさん"だったから。
スタジオ中が一部始終を見守る中、少しずつ、クスクスという笑い声があちこちから漏れ始める。
「ふふ、ハイっ、カーーーット!」
監督の一声で、全員が一斉に吹き出した。
大きな拍手やヒュゥーヒュゥー!と口笛で囃し立てられ騒然と盛り上がる中、未だに上手く情報処理ができていない私をよそに
セブルスの格好をしたアランさんがぐいっと私を抱き寄せ思いっきりキスをしてきた。
「ちょーっ!!そこ!Aカメ!!まわしてまわして!!!」
「なによもったいぶっっちゃってー!!この大根役者ー!幸せかばかやろー!」
監督とトンプソンさんが並んでぎゃははと豪快に笑っている。
まるでアカデミー賞の授賞式みたいに最高潮のギャラリー
喧騒が…遠くに聞こえる。
そこだけ、切り取られた二人きりの世界
私たちは夢中になってキスをした。
【15・あいべつ・終】
拍手ありがとうございます!!
コメントなどいただけるととても嬉しいです♪
(お返事は随時!)
また遊びにいらしてくださいね▽`)ノシ
ピーコック
ルリ
※このBACK STAGEシリーズlogは
長編『Rose Noir.』
のページに置いてあります。