短編

□Sweet Bitter Lily
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私の親友"リリー"は、豊かな赤い髪を持つ美しい人だ。

お洒落な服を着て、傍にいるとシャンプーのいい匂いがして、いつも笑顔が絶えず周りのみんなまで明るくさせる様な、太陽みたいな人。


けれど"彼女"には、誰にも言えない秘密があった。


一部の大人たちと私だけがそれを知っている、他の誰にも言えない秘密が……













「……おい、聞いてるのか?ナナコ」

はっと我に返る。ざわざわと騒がしい大広間の、一番端にあるスリザリン寮テーブルで食事をしていたのだった。

『へ!?あ、ご、ごめん…なんだっけ?』

隣に座っているセブルス・スネイプは同じ寮の同級生で、そして、私が密かに想いを寄せている人でもある。

「珍しいな。君が本を読んでる時以外でそんなにぼーっとしてるなんて。」
『え、えへへ…ごめんごめん』
「まあいい。次はグリフィンドールと合同授業なんだから、しっかり目を覚ましとけよ?気を抜いてると奴らに出し抜かれ……」


ぶつぶつと小言を浴びせる(いつものことだ)彼は、言葉尻をすぼませながら視線を大広間の入口に移した。

「じゃあ、僕は先に行くからな。……リリー!」

さっさと広げていた参考書をまとめて持ち、彼は入口を出ていこうとしていた彼女の方へと小走りに向かっていく。

その背中を見つめながら、溜息を、ぽつり。



…彼はきっと、リリーが好きなんだろう。

彼とそういう話をしたことはないが、いつも行動を共にし、彼のことをたくさん見ている私が気づかないわけなかった。


複雑な想いのまま私も席を立ち、参考書を持ってクロワッサンを頬張りながら大広間を後にする。




:::


「すばらしい!みんな、エバンズが調合にイチ抜けで成功だ。質問があれば、私か彼女にする様に!」


神様は二物も三物も彼女に与えたのか、リリーは頭も良かった。

その上人気者なのでこうしてスラグホーン先生のお気に入りでもあるわけだし、先生があんな風に声高に言ったもんだから、彼女の周りにはすぐに人だかりができる。みんな彼女のすり鉢の中を見たり、彼女に声をかけたりしているが、ほとんどがグリフィンドール生だ。


私はセブルスとペアを組んで取りかかっていたのだが、肩を並べた隣で満月草をすり潰していた彼の手が、ふと止まる。

(…きっとリリーを見ているんだろうな。)

皮肉なことに彼のことならまるでセンサーでも内蔵されているかの様に、何でもよく察知してしまう。私は無闇に傷つきたくないから顔を上げずに黙々と自分の作業に集中していた、そこへ__、



「ナナコ、それ、何刻んでるの?」


セブルスとは反対の方から急に声をかけられ心臓が跳ねる。私が顔をあげるのと同時にセブルスもこちらに向いた様だ。


ジェームズ・ポッター…


いつも私やセブルスに絡んではちょっかいを出してくる悪戯者。

『…七色マメよ。さっき、先生がそう言ってたでしょう』
「あぁ、そうだった。…手伝おうか?」
『結構よ。あなた、人の心配してる場合じゃ…』

抗議の視線を送ると、彼はにっこり笑って親指でリリーの居る方を指した。そうか、リリーとペアだったのね。

「ご覧の通り、みんなウチのお姫様に夢中だ。…俺は、君の方に興味があるんだけどね」
『!』
「ポッター。調合の邪魔だ、席に戻れよ」

ジェームズが私の肩に手を置いたので、横からセブルスが庇う様にして私を引き寄せ、肩の手を払った。

「おーおースニベルス、いい度胸じゃないか。さしずめ、スリザリンの姫を守るナイトといったところかな?」
「黙れ、二度と口をきけなくしてやろうか」
「おっと残念、じゃそうなる前にナナコの王子サマは俺ってことでいい?」


二人が咄嗟に杖を抜いて突き付け合う。

『ちょ、ちょっといい加減に…』
「二人とも何してるの!ジェームズ、調合中に邪魔をするのは危険だわ。間違って七色マメが火の中に入りでもしたら大変なことになるのよ!?」


リリーがすごい剣幕でこちらに来たので必然的に教室中の注目を浴びてしまう。
先生ですら、その中でポカンと圧倒されているほど。


流石の二人も杖をローブにしまう。相変わらず睨みをきかせ合ったままだ。

「ジェームズ、ほら。戻りましょう」

ジェームズはフンと鼻を鳴らしてリリーの後についていった。その様子を見送っているとリリーと目が合って彼女がウィンクを飛ばしてきたので、私はそっと頷く。後で会いましょうの合図だ。


『……セブルス、大丈夫?』
「……あぁ。大したことない。君は?怪我はないか?」
『ありがとう、大丈夫よ。』



心臓が、どきどきする。

彼のこういう優しさが好きだし、さっき、身体を引き寄せられたときの…あの、腕や胸板の逞しさ……。

彼は背は高いが、クィディッチの名物選手であるジェームズのがっしりした体型に比べれば、やや痩せ型に見える。けれども見かけによらず実はそういった男らしい逞しさがあるというところにどうしようもなく心臓がきゅっとなった。

紅潮した顔を見られない様に、下を向いて再び七色マメを刻み始めるのだった。




まじわらない四角形



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