短編

□Sweet Bitter Lily
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セブリリ要素多め(しかも微裏)





私にはできなくても、

リリーなら……





とん、っと軽い音を立てて彼の胸に飛び込んだ。
突然の行動に狼狽えたセブルスは身体を強張らせている。

「…り、リリーっ……?」

私は答えもせず、何も言うことができない。
少しでも声を発したら泣いてしまいそうだからだ。
既に潤み始める瞳を見られないように気をつけながら、めいいっぱいに彼を感じる。


セブルスの幸せのためですって?
そんなの結局、たてまえに過ぎなかった。

ずっと、…私はずっと、こうしたかった。


ぎゅっと彼のシャツを掴みながら身体の震えが止まらない。

セブルス、セブルス……私、あなたがどうしても好き。

決して口にはできないこの想いに、彼が気づいてしまいませんように。もしも気づかれようものなら、きっと夢から醒めてしまうから。


セブルスの腕が私の背に回り、そっと包み込まれるのを感じてはっと目を開ける。

…セブルスが、私を抱き締めてる!

もう一度…今度はゆっくり目を閉じた。
手先は冷たい癖に、腕の中はとても暖かい。或いは私自身の熱かもしれないけれど。そうだとしたらその熱は激しく高鳴る心臓が源であるに違いない。
ほとんど無意識のうちだが彼の胸元に頭を擦り寄せてみると背中を伝う手の平が優しく撫でてくれる。
束の間でも、それだけで幸せに満たされた。



鏡の中で、彼の腕に抱かれているのはリリーだ。



こんな形でしか夢を叶えられないことも
彼の心は、本当は私の物でないことも

とっくのとうにわかりきってる。
覚悟は十分できているつもりでいた。




けれどそれはとてもとても、浅はかな思い込みだった。




どれくらいの時間が経ったのか。
心地良いぬくもりを心ゆくまで堪能して

(そろそろ目を覚まそう、ナナコ・ナナシに戻らなくちゃ、薬がきれてしまう…)


そう思って名残惜しくも彼から身体を離した、その瞬間だった。

すっと顎を掬われ何の躊躇いもなく唇が重なる。




あまりに想定外の展開に、今度は私が身を強張らせる番だった。
セブルスだって男だ。好きな子が密着してくれば……怖いくらいに冷静な頭で理解はできているものの、時は既に遅かった。

『、っ、せ、ブ、…ちょっ、んぅ!』
抵抗も虚しく、彼は獣のように貪り求める。
歯止めが効かない様でこちらの嫌がる素振りにも気づいていない。

それほどまでに彼が欲しているのは、私ではなくリリーなのだという残酷な現実に理性を突き刺されながらも、驚いたことに本能はそうではなかった。

激しく、執拗で、粘着質な彼の唇に…舌に、確かに興奮している自分がいるのだ。

混乱の中でもはや何も考えられず
私は本能に魂を売ってしまった。

少し背伸びをして彼の首に腕を回し、『もっと』と強請るようにキスに答える。セブルスの唇の柔らかさ、薄さ、甘さに酔いしれ、その禁断の果実を夢中で喰んだ。

互いが互いに興奮を上乗せしていく様に、もうこれ以上無いという程身体を密着させて絡められるもの全てを絡ませ合う。そうして唇は離さないままセブルスがほんの軽い力で私の身体を押しやるので、じきに背中がピタリと壁に付いた。そのまま彼と壁とに挟まれ身動きも呼吸もままならないうちに頭の奥の芯がジンジンと痺れ始めてきた頃、セブルスの手が身体を這い始めたことに気づく。


今、私はリリーなのだ。
薬を飲んだ時真っ先に感じた身体の違和感を今の今まですっかり忘れていたことに気づき、みるみる血の気が引いていった。

『ま、って、駄目、セブルスっ』
「どうして」

"彼女"の重大な秘密をこんなところで晒すわけにはいかない。これ以上リリーを裏切るなど、許されるはずがない。けれども何も知らない彼は今更、とばかりに手を進め続ける。そんな状況とは裏腹に実に敏感な本能がまた私を混乱させてきた。

人間の醜い欲深さ、罪深さに苛まれる。
背徳すらも興奮剤となって、もっと…触ってほしい。この熱に溶けてしまいたい。

『だめ、だってば…ぁっ、も、う』
「…っ、もっと、欲しそうに見えるけど」

首筋に噛みつかれながら遂に彼の手が太腿の間に滑り込んできた。
後悔と、快感に喘ぎながら目を閉じる。
もうとっくに、後戻りなどできないというのに…


「………、……」

手が、止まる。
静かな部屋に荒くなった二人の息遣いだけが響いて、離れた身体を包むように自分で自分を抱き締めた。それでもやはり温度は少しずつ、下がっていくばかり。

目の前の彼が、今どんな顔をしてるのかくらい目を伏せていてもわかった。




あぁ、神様。


私は自分の欲望に抗えず

二度までも


友を裏切りました。








原罪



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