短編

□Sweet Bitter Lily
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セブリリ要素多め





セブルスと二人、「太った婦人の肖像画」前に立ち尽くしていた。思えば、長い学生生活の中でここへ来たのは初めての様な気がする。


「合言葉がないと入れられなーいの!ごめんなさいね」
『じゃあ、リリーを、…リリー・エバンズを呼んでください。』
「まあ!そんなの自分でやってちょうだい!」

あたくしだって暇じゃないのよ!などとブツブツ言いながら手鏡に視線を戻し、熱心に口紅を塗っている。

「…だめだ、埒があかない。合同授業の時にでも出直そう」

諦めのため息をついたセブルスが振り返り、二、三段ほど階段を降りかけたところで立ち止まった。
ちょうど階段を昇ってきたリリーと鉢合わせたのだ。


「……リリー…」
「………」

二人はしばらく見つめ合っているが、両者とも何も言わない。先に沈黙を破ったのはセブルスだった。

「君に、謝ろうと思って来たんだ。この前酷いことを…」

リリーは一度目を伏せ、そして次に私を見たので必然と目が合う。


あの日、私のした行動とセブルスが吐き捨てた言葉は深く彼女を傷つけた。何度も謝罪の手紙を書いたが受け入れてももらえない。昔の様に私たちが手を握って笑い合うことは…もうきっと、この先も、ないだろう。


けれどセブルスは
…セブルスのことは、許してあげて欲しい。


きっと本心ではなかったに違いない。私を庇おうとしただけなのだ。彼はいつでも、私を守る為に自分が傷つく。私自身が責められたり嫌われたりするのは構わないがそれにだけは、もう耐えられなかった。


「………。」


結局彼女は何も言わず肖像画の向こうへ消えていく。目の前でセブルスの拳が震えているのが見えた。

項垂れた背中が…、とても小さく思えた。



壊れてしまったものは、もう、二度と


戻らないことを知る。






その夜、私は頭からすっぽり布団をかぶって金色の液体が入った小瓶をぼんやり眺めていた。角度を変えてみると杖先に灯した光が反射してキラキラと私を誘ってみせる。


幸運を呼ぶ、か……。


きゅぽ、と栓を外して中身を一気に喉奥へと流し込み

"ノックス"を唱え、シーツに沈んだ。



朝、目が覚めたら…

セブルスが笑顔になれますように。


…リリーとまた、笑い合える日々でありますように。







:::

ひと月後

いつもと変わらない日々が続いていた。



授業が終わり、セブルスはいつものように禁書を読みに行こうと声を掛けてくれたが、その日初めて私は丁重に断って1人中庭のベンチに座っていた。



「ナナコ!」

ジェームズが片手をあげながらこちらへと歩いて来て、隣に腰掛ける。以前の様に馴れ馴れしく肩を抱いたりはせず、節度のある距離感。どうやら彼という人間も随分と成長したらしい。それに今日は何やら神妙な面持ちをしている。


それもそのはず。
今日、私たちは共謀者となって

校則だけでなく、あらゆる方面に対する"禁忌"を犯すことになるのだから……


それこそが、フェリックス・フェリシスの導き出した答えだった。




「……ほんとに、やるんだな?」
『ええ。』
「間違いなく君は傷つくことになる」
『……ええ。』
「………。」
『………。』

ジェームズは私に目を向けているが、私は空を仰いでいた。

「今更、か。こうなってしまった責任は、俺にだってあるだろ。だから、その、…独りで抱え込むなよ。」


そこで、私は初めて彼を見る。
とてもまっすぐな瞳だった。


『大丈夫よ。それより、…リリーをお願いね。』
「………わかった。これ、約束の」


そっと重なる手と手の間には、小瓶。

「大した度胸だまったく。…健闘を祈るよ。」

『ありがとう、ジェームズ。』



小瓶に入った2、3本の赤い髪

果たしてそれは運命の赤い糸となり得るのか。


大きく息を吸って、立ち上がった。



:::



消灯時間をとうに過ぎた頃の「必要の部屋」で一人、彼が来るのを待っていた。
窓から月明かりが差し込んで鏡に映る自分の姿を見つめる。

見たことのある景色だ。
そう、前にここで、リリーと……

無意識に唇を指先でなぞる。
自分のであってそうでないような、不思議な感じ。それから脚の間も、いつもと違って違和感だらけだ。早いところ済ませてしまおう…。


ギィ、


音の方へ目をやると、扉の前でセブルスがこちらを見ながら立ち尽くしていた。
はやる鼓動を抑えながら必死に冷静を装う。



『……こんな時間に呼び出してごめんなさいね、セブ。』
「いや、僕は別に……君こそ大丈夫なのか?首席だろ」

私は豊かな赤髪を揺らして微笑んだ。
セブルスが息を飲んだのがわかる。そうか、"リリーには"、そういう顔も、見せるんだね。


『………』
「………」

気まずい空気が流れてお互いに言葉を探る。
私から、…私から、何か言わなくちゃ。


『その、セブ?私、ね。あなたのこと許そうと思って、…そのことを伝えたかったの』
「…リリー……」
『私もきっと意固地だったわ。ごめんなさい』
「いや!…僕こそ、あの時はどうかしてた」



どうかしてた、…か。

何の迷いもなく私を庇い、大好きなはずのリリーにまで牙をむけてくれたこと

…私は、嬉しかったんだけどな。

針ほどの穴が開いた風船の様に心がゆっくりしぼんでいくのが、自分でもわかる。けれどそれは置いといて今はセブルスに集中しなくちゃ。


私は静かに彼の元へと歩み寄った。
何故だか、セブルスは怯えた様子で月明かりを避けるように暗がりへと身を滑らせる。

『……そんなに怖がらないで。何もしないから…はい』
「!」

すっと手を差し出した。

『仲直り。ほら!』
「……、」

半ば強引に彼の手を取って、握手をする。
…冷たいその手に胸が少しだけ締め付けられた。



これで、いいんだ。
あとはジェームズがリリーを説得してくれて、そのあとで偽物じゃなく本物のリリーと仲直りができれば…そうしたら、セブルスは、幸せになれるでしょう?もうこれ以上、闇に染まることもないでしょう?


だけど、仲直りができても結局リリーの気持ちはジェームズにあるのだから、……今日だけ特別ね。

…特別に、少しだけでいいから、夢を見たいの。



セブルス

貴方と、二人で。








アダムとイヴ






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