短編

□Sweet Bitter Lily
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あれからセブルスと私はちゃんと仲直りをして、またいつもの日常に戻っていた。
朝起きて支度をし、談話室で彼と落ち合って朝食を摂りに大広間に向かう。その間も授業の復習や予習について話したり、隣同士に座って食事をしながら各々参考書や新聞を開いたりする、他愛のない日常。

それが何より幸せだと思えた。



「だらしないな、パンくずがついてる」
『…ぇ、ありが……』

パンを食べた手で髪を耳にかけた時についたのかもしれない。セブルスが払ってくれたのでお礼を言おうと思ってそちらに顔を向けて、時が止まる。端整な白い顔、その尖った鼻先があまりに近過ぎたからだ。恥ずかしさを誤魔化すように勢いよく立ち上がった。

『わ、わたし、早めに教室行ってるっ!フリットウィック先生に質問があるの、えっと、その、じゃあね!!』
「あ、おい」


一目散に廊下を駆け抜ける。火照った顔に当たる風はヒンヤリしていて心地良いが、胸のざわめきは一向に収まらなかった。






そんなある日の、昼下がりのこと。


セブルスと私は天気が良かったので湖のほとりにある樹の下に腰を下ろして各々読書に没頭していた。
すると聞き慣れた声が耳に入ってきたので顔を上げてみる。ジェームズ御一行と…リリーだ。

案の定、ジェームズは私たちを目に入れるなり面白くなさそうな顔をしてこちらへ向かってきた。

「これはこれはスリザリン諸君。こんな青空の下で本の虫とは、何て退屈な」
「うるさい邪魔するなよ。…リリー、連中と居るとバカが移るぞ」

リリーは困った様な笑顔を見せるが何も言わなかった。ここ最近、彼女はセブルスとあまり関わりを持とうとしていないみたい。私に気を遣っているならその必要はないと話したんだけど、それでも変わらないということは…何か別の理由でもあるんだろうか。

少なくともセブルスがそのことに対して寂しそうにしているのは明らかだった。
だから、なりふり構わず彼女に声を掛けてしまったんだろう。何でも良いから彼女に接触したかったんだと思う。
けれどジェームズたちはそんなセブルスに漏れなく喰い付いた。寧ろまるでリリーを餌に釣り上げてやったとでも言う様に、口角を上げどこか勝ち誇った様子でいるのだ。何だかとても嫌な予感がする。



「誰か、スネイプのパンツを見たい奴は居るか?」

セブルスの杖は弾き飛ばされ、周囲が"スニベルス"と囃し立て始めた。
私も咄嗟に自分の杖を取り出してジェームズに向ける。が、彼の肩口で固唾を呑むリリーと目が合い、一瞬だけ躊躇してしまった。その隙をついて私の杖も飛ばされ、手脚を縛り上げられた勢いでその場に尻餅をつく。

『った!』
「ナナコ!」
「パッドフット!彼女に乱暴するな!」
「わかってるさジェームズ。ちょっと大人しくしててもらおうと思っただけだろ」

「ナナコ!大丈夫か!?今解いて……っ!」
『セブルス!!』


心配して駆け寄ってくれたセブルスが目の前でふわふわと宙に浮いていく。
その向こうに無表情のまま杖を掲げるジェームズが居た。

非情、且つ冷酷さを思わせる無表情だった。



その時私は初めて気づいたのだ。
彼がセブルスに絡む理由、2人が喧嘩したあの日セブルスが何故私を拒絶したのか。


_____ぜんぶ、私のせいだったんだ。




空中で逆さ吊りにされながら成す術もないセブルスはグリフィンドールの嘲笑の的になっている。
ただでさえプライドの高い彼なのに…好きな子の目の前でこんな辱めを受けるなんて、それがどれほど彼を傷つけることになるか。しかもその発端の、最たる原因は、私にあるだなんて。


悔しかった。
なんにもわかってなかった自分が。
それでもセブルスは私を受け入れてくれたんだ。

その優しさ。
自分の弱さ。

悔しさは余計につのり涙が溢れ出た。

『…やめ、て、セブルスを離してよ…うっ、ぅ』




リリーが私に駆け寄った。周囲が夢中でセブルスを見上げている隙に縄を解いてくれたのだ。

「ナナコ!大丈夫?しっかり…」
『……リリー、ごめん、ね。』
「えっ…」


自由になった私はセブルスを助けることしか頭になく、他のことは何も考えられなかった。

『アクシオ、杖…ステューピファイ!!』

ジェームズが吹き飛び、呪文が解かれてセブルスも地面に打ちつけられた。そして、

「…っ、てぇ…ナナコ、なにすん……っ!!!?」


その場に居た全員が息を呑む。


顔を歪ませながら膝をついて起き上がるジェームズに駆け寄り

私はその両頬を包んで勢いよく唇を押し付けた。


セブルスが見ている前で。

リリーが、見ている前で…。




もしも世界が終わっても



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