短編

□Sweet Bitter Lily
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魔法薬学の授業が終わりナナコでも誘って図書館に行こうと思いついたのだが、その姿が見当たらないので仕方無しに一人で廊下を歩いていた時だった。



「……スネイプ。ちょっと顔貸せよ」



いつもの厄介な四人組に囲まれる。
特にリーダー格のポッターが僕を"スニベルス"と敢えてからかわない時は、殊更に面倒なのだ。


「ふん、貴様の指図を受ける義理はない。君たちは四人でやっと一人前なのか?」


挑発を挑発で返すと、すぐ様ブラックが飛び掛かって来そうになったがルーピンがすかさずそれを抑えた。


「……真面目に話したいんだ。ナナコの事なんだが」
「………。」


大切な友の名を出されては引き下がれない。
それにその"話"とやらが何なのかは、概ね予想がついた。






「お前さ、彼女のこと本当はどうなんだよ」



それみたことか。
あまりに予想通り過ぎて溜息が出た。


「どうもこうも、ただの友人だ。それ以上でも以下でもない。」
「だったら、四六時中一緒にいるのやめろよ。」
「何故貴様にそんなことまで指示されなきゃならないんだ?僕がいつ誰といようが勝手だろ」
「う…そ、それはそうだが、くっつき過ぎなんだよお前ら!!」



嗚呼、はいはい。
ジェームズ・ポッター…もう少しマシな奴だと思っていたがここまでとは。上級生にもなって童貞も真っ青なほど"からっきし"のようだ。隣でブラックが額に手を当てて溜息を吐いてる。


要は、自分がナナコに相手にされないものだから面白くないのだろう。


「僕に言われても困る。そう思うならナナコに直接言ったらどうだ?……彼女の方から僕にくっついてくるんだから仕方無いだろ」
「……おい、それ以上調子に乗るなよ?スネイプ」


気温が下がったかと思うほど、奴の目つきが急激に変化した。これは地雷というやつだろうか…とにかく、良くないスイッチを押してしまったのは確かだ。


「…本当は知ってるさ。お前、いつもリリーのこと見てるだろ?」
「!」
「彼女に相手にされないからってナナコに慰めてもらってんのか?」



ブラックとペティグリューが込み上げる嘲笑を吹き出していたが、ルーピンだけはいち早く動いた。奴はお人好しにも、友人を庇い僕の拳をその頬に受けたのだ。

「っ…!」
ズサァァア

「リーマスっっ!!!」
「畜生っ!ついにスニベルスがやりやがったぞ!!てっめェ!!」


今にも飛び掛らんと向かってくるブラックの肩にポッターが手を置いてそれを制すると、奴自身の拳で渾身の一撃をかましてきた。そこから先は両者とも頭の血が引くことはなく、もう揉みくちゃ状態だ。

流石の体格差もあり奴からの攻撃は洒落にならないほど痛いし、ルーピンを気の毒に思う気持ちもあるが…それでも、一歩たりとも退く気などなかった。
僕のことは何を言われようと構わない。けれどナナコに対する侮辱は、絶対に許さない。


さっきは奴を煽るためにああ言ったが…本当は、彼女のことは大切な存在だと思っている。
…良き理解者なんだ。
少なくともそんな不純な関係なんかじゃない。彼女に対して失礼だろう。



結局リーマスに駆け寄ったペティグリューが彼からの指示を受けマクゴナガルを呼んでくるまで、闘いは続いた。ブラックが「いいぞジェームズ!やっちまえ!」とか何とか叫んでいて、周りに人だかりもできてきた頃だった。


二人とも減点は勿論、罰則まで喰らって事は収束した。金輪際、奴との接触は極力避けよう。

睨み合ったままそれぞれの寮へと向かった。




:::

その夜は眠れなかった。
中途半端に収められずにいたままの苛立ちをあろうことかナナコへぶつけてしまったのだ。今更ながら後悔の念が押し寄せてくる。

そして彼女が初めて、僕を拒絶した。

自業自得。当然と言われればそうなのだが…、その実ショックを感じている自分がいるのも確かだった。


明日から、どんな気持ちで顔を合わせたら良いのだろう。


何度目かの寝返りをうって、窓の外を眺める。

静かな城中に激しい雨の打ちつける音が響き、更に胸がざわめく嫌な夜だ。



ナナコは、今頃泣いているのだろうか。

一人で…。




見えざる何かが輝きて



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