短編

□我輩は猫であるわけない
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ドンガラガッシャーン!!!

罰則を受けに(不本意ながら)この薄暗い、魔法薬学教室に訪れた時のこと。

重たい気持ちで扉を開けようと手を掛けた瞬間に中から物凄い音が聞こえてきたので、驚いて勢いよく中へ入った。

騒然な光景に息を飲む。
実験を行う机の上から、薙ぎ払われたかの如く床に散らばるガラス瓶の破片、バサバサと無造作に落ちたのであろう本や羊皮紙巻き、ひっくり返る大釜…そして、


『スネイプ先生……!!』


両手で顔を覆いながら苦しそうに唸っている先生が、ドサリとその場に倒れた。


やだ、ちょっと、どうしよう!
駆け寄って膝をつき、横たわる先生のでかい図体を揺さぶる。

普段私がグリフィンドール生だからって嫌味を言ってきたり目の敵にしてあげ足ばっかりとってあの手この手で恥をかかせてきたりして、…なんか思い出したら腹立たしくなってきたけど、今はそれどころじゃない!あの、スネイプが、こんな…

恐らく実験に失敗して魔法が暴発したのだろう。さすがに、どんなに嫌いなやつでも大の大人、それも男の人が危険な状態にあるのだ、焦る。


『先生!スネイプ先生っ!!どうしよう…そうだ、マクゴナガル先生に知らせ、』

に行こうと、立ち上がろうとしたその時、すごい力で突然腕を掴まれた。

『きやあああああ!!!!!!』
「…やかま、しい…ぐり、ふぃん…る、…じゅって、ん、減、点……」
『死にそうになりながら減点するな!!』

とりあえず命に別状はなさそうだ。

『先生っ!大丈夫ですか?!今マクゴナガル先生を呼んできますから!だから離してよ怖い!!』
「うぅ…その必要は、ない……」

ゾンビみたいにずるずると這って私の肩まで手を伸ばし、人を支えにしてなんとか立ち上がろうとしている先生の顔が至近距離にあって超怖い。

『必要ないってそんな、明らかに、う、わわわ…、きゃっ!!』

でかい図体が、どこからどう見ても華奢な私を支えにしようと全体重をかけてきたものだからこちらだってそんなに耐久性は強くなく、バランスを崩して諸共倒れ込む。(所謂、押し倒された状態)

『ちょっと!!全然大丈夫じゃないじゃない!!誰か来て変な誤解されたらどうすんのよ!!』

1番の心配はそこである。

更には触らなくたって見ただけでわかるくらいベトベトしてそうな重たい黒髪が、ヒタリと私の頬に張り付いた。いやぁぁ

両手とも下敷きになってしまって使えないので、ふるふると顔を左右にめいいっぱい動かして張り付いた髪の毛を払おうとしたとき、不自然な感触に気づいた。

(……………?!?!!)

恐る恐る顔をそちらに向けると、有り得ないモノが目に入る。

スネイプの頭に生えた、髪と同じく艶々に光る、黒い猫耳……





のそり、と普通に自分の力で起きあがった先生はもう意識も正常なようで、やれやれと言った風に溜息を吐いて何事もなかったかのように椅子に座った。こっちがやれやれだわ!
いつもの様に眉間に谷を作り、むっすーとした顔で私を見つめる。
何かを言おうとして口を開くが、都合が悪いことでもあるのか、苦虫を噛み潰した顔をしてまた閉口した。

頭の上では、例の耳が、ぴょこぴょこと蠢いていてついでにズボンを突き破って生えてきた長い尻尾までフニフニと遊ばせている始末。

(なんなの、なんなの、なんなのよ…!!)

一番謎なのは、そんな風貌でいながら「何か問題でも?」とでも言いたげに不機嫌に踏ん反り返ったその態度だ。
この状況でよくそんな顔してられるわね…。
私が外へ出ようとするとまた腕を掴んで止めてくるので、じゃあどうすれば良いのよと指示を待つが、さっきからこんな調子なので時間だけが無駄に過ぎていく。

『…あの、先生……ご自分で、何とかできると仰るなら、私、帰ってもいいですか…?』

近くにあった紙切れにサササと羽根ペンを走らせ、ヒラリと見せてきたそこには「罰則はどうした!」と書き殴られていて私は額に手を当てた。


先生はその後も筆談で罰則を言い付けるなり、自身の状況については何の説明も弁解もせずにシラを切り通していた。
もういいや、こうなったらさっさと罰則を終わらせてさっさと寮へ戻ってさっさと寝てしまおう。

山の様に積まれた空の瓶を拭いている後ろで、猫スネイプはサクサクとレポートの採点を進めていた。横目でチラと見ると、動物のそれの様に時折くぁ〜と欠伸をかましている。

椅子から垂れた、あの尻尾…
本人はたぶん無意識なんだろうけど、またクネクネと左右に振られていて、なんだか、可愛いく思えてきた。
一部の女子が萌え叫びそうな、あの陰険教師のこんな姿…きっと二度とお目にかかれないだろう。


私は説明しようのない悪戯心と衝動に駆られて、気づかれない様にそっと近づき…その尻尾を掴んで根元から先へと撫で上げた。

「うに"ゃぁぁああ!!?」
『きゃああああ!!!』

そんなに叫ばれると思わなくて釣られて私まで叫んでしまう。
先生はがたんと椅子を倒して私の胸倉を勢いよく掴みあげ、杖を突きつけてきた。

「にゃあにゃあにゃにゃ、グルグルグル…」

私は目を瞑って「貴様覚悟は良いな?グリフィンドール10点云々かんぬん…」というネチネチした低音ボイスが浴びせられるのを待った。
浴びせられたのは低音ボイスの、猫撫で声と喉を鳴らす音だった。

『………』
「………」


なんというか…半分猫になっている所為か、いつも生徒を震え上がらせている様な威厳は欠片ほどもなく、おまけに今彼は目の前でカァッと赤面している。

『…せん、せ、……言葉…』
「にゃあにゃい」

うるさい、と言ったに違いない。
諦めた様に私を離してまた机に戻ってまった。


た…たのしい……!!

元々私は魔法生物が大好きなのだ。
なんだか、未知の生き物に出会った気分!!

目を輝かせてわっしーと大きな背中に飛びついた。先生はまた大層驚いてビクゥ!と反応しながら髪の毛と尻尾の毛が逆立っている。

ああ、グリフィンドールのみんなごめんね。あとでめちゃくちゃ減点やら罰則やら喰らうと思うけど、不思議と今は怖くもなんともない!


『むしろかわいいっ!かわいいよううう』
「にゃんに"ゃ!!ふぎゃあ」

急いで振り返った猫にゃん(※スネイプ)の首元にしがみついて嫌がる彼を無理矢理わしわしと撫でまわす。


(一体どうしてしまったのだこいつは…!)


先生が私の変貌ぶりに驚いているとも知らずに、私は彼の顎下を撫でた。

「ゴロゴロゴロ」
生理的反応に抗えないのか、目を細めて気持ち良さそうに首を伸ばしている。ああかわいいい

『スネにゃん、よちよち』
「……に"ゃああぁぁぁ」





時間経過とともに元の姿に戻ったスネイプ先生はぐったりとして、『つまんないー!』と駄々を捏ねる私に「もういい罰則も減点もどうでもいい。頼むから早く帰ってくれ」と私を摘まみ出すのだった。



我輩は猫であるわけない

(言えない。本当はナナシに飲ませるつもりで作った薬だったとは、言えない。)




こんどは飲ませてみようかな^^



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