短編

□神様探し
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「闇の魔術に対する防衛術」教室の奥にある教員用準備室の扉をすり抜けると窓辺に突っ伏して座るナナコの姿があった。
かつて幼馴染の死を悼み喪に服していた私と同じ様に、その身は黒衣に包まれている。

君は…そうか。あの時の私の、鏡写しなのだな。

当時そうやって他を寄せ付けない私の側にはいつも君がいた。それが今となっては私自身の死でもって君に同じ境遇を辿らせ、そして君の側に、こうして私が居る。…何と皮肉なことだろう。
そんな事を考えながらぼんやりとその小さな背中を見つめた。





謎が解けた。
どういうわけかナナコにだけ、私の姿が見えていないのだ。


ミネルバの話では
決戦の後、私の死をどうしても受け入れられなかった彼女はその「現実」から目を背ける様にして、…逃げる様にして、
まるで人が変わったと思える程に閉ざされた世界に籠ってしまったらしい。あくまで精神論でしかなく根拠はないが、恐らくそのことが影響して私が見えなくなっているのでは、と。


それなのに君は、毎日、あの手紙を書き続けていたというのか。返事が来ることなど無いのもわかっていながら。

少なくともあの文面から感じられたナナコ・ナナシは、私の知るかつての明るくて爛漫な女だった筈だ。

(…せっかく、)

勇気を出して、こうして君に会うために、此処まで来てやったというのに。肩透かしも良いところではないか。





「………会いたいと、言ったのは、君ではなかったのかね」


独り言として呟いたつもりが、目の前の彼女が大きく反応した。

『…セブルス……?』

振り向いたその頬は涙に濡れ、蝋燭の薄灯りがその跡を照らしている。それが、なんとも言えぬ程私を締め付けた。

『…セブルス、来てくれたの?』
「……扉のあたりだ。」

どうやら声は届くようでそれを聞いた彼女と、やっとのことで視線が絡まった。
たまらなくなった私は彼女に近づき、思わず頬の濡れた筋に指を這わせる。が、何の感触も得られないことに落胆した。

「…………人に手紙を出すなら、少しはマシな文章力を身につけてからにしたまえ。」

構わず今度は両手で頬を包みながら以前の様に悪態をついてみるも、それに対するいつもの様な反論は返ってこない。代わりに、次から次へと大粒の滴が私の手をすり抜けていった。もう、君の涙を拭うこともできんのか。


『手紙、届いてないものと思ってた…。』
「君の梟は実に優秀なようだ。……毎日、欠かさず読んでいる。」


顔を崩して泣きながらも少しだけ頬を染める君を抱きしめられないなんて、


自分を呪いそうだ。





生クリームはコーヒーには溶けないんだってさ

("ナナシを頼みましたよ、セブルス。")
("……承知した。")



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