短編

□神様探し
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驚いた。まさかこんなにも簡単に"姿現し"ができるなんて、そもそも死んでから魔法を使うなどその発想すらなかった。



目の前には、未だ修復作業中で所々の壁石などが崩れかかってはいるものの、あの頃とまったく変わらぬ立ち姿のホグワーツ城。


…最期に見たときは、戦火に燃えていた。


だから何だというわけではないが、やはり感慨深さを覚える。月日は流れ充分な時が経っているのだとしても、自分の時計だけが当時のまま止まってしまっているかの様な、錯覚。


不思議なことに、朝方、向こうを発って来た筈だが一瞬で着いた今はもう、辺りは真っ暗だ。仄暗い月と城内の薄明かりがその外観のシルエットをぼうっと浮かび上がらせていた。


昨日の朝の手紙でナナコが寮監に就いたと言っていたな。と、いうことは、

(今夜は始業式ではないか!)

いち早く大広間へと、慣れた廊下に足を進めた。






大聖堂の如く大きな扉をつい癖で両手開きに押そうとするも、触れることができないのでそのまま空振りして身体ごとすり抜けてしまう。


現校長であるミネルバが校則について述べていた最中だった様で、突然正面に現れた私の姿を目に入れるや否や歳の割によく通る声を詰まらせた。

「……セブルスっ!」

厳かな雰囲気から一転、急に狼狽え出す校長の様子を不審に思った全校生徒たちは振り返り私を見るなり、一斉に騒ぎ立て始める。


急ぐあまりに深く考えていなかったが、登場する時間を完全に誤った様だ。(こんなに注目を浴びるなど全くもって不本意である)

上級生の席には、どの寮もまだ記憶に新しい面々が揃っている。つい半年ほど前、君たちの前で演説していたのは私だったのだから。

新入生は初めて見る「ゴースト」の姿に怖がる者や興奮する者など今年も手のかかる厄介そうな子供たちが、何人も居て…


…私は、帰って来たのだ。


ミネルバが壇を降りてローブを翻しながらまっすぐにこちらへ向かってくる最中、視線を少し横へずらすと以前私が座っていた席の隣にナナコの姿があった。けれどその視線は懸命にミネルバの背中を追っていて、どういうわけか私のものと絡むことはなかった。

疑念を抱く間もなくミネルバが両手を広げながらすぐ近くまでやってくるが、抱き締めようにも叶わないのでその両手を遊ばせている。

「嗚呼、セブルス…よくぞ、戻られました。貴方と私の間には話さなければならないことが山程ある筈です。後程"校長室"へ。良いですね?」


返事も聞かず「さあ皆さん!彼は招かれざる客ではありません、本校の前校長が帰られたのですよ。歓迎致しましょう!」と高らかに叫びながら壇上へと戻っていく。

広間を埋める割れんばかりの歓声に、思わず苦い表情をした。こういうのは、どうも好かんのだ。


肝心のナナコは、というと…
酷く悲しげな顔をして、立ち上がって拍手しているスラグホーンの横で俯いてしまっている。

……本当は、"招かれざる客"だったのではないかと一抹の不安を覚えた。






追い続けるのはやめにしよう


私を、見てくれ。





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