短編
□神様探し
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死後の生活…というのは実に不可思議なものだ。
生前長い間繰り返してきた習慣の名残からか、夜になると眠りにつくし翌朝(私の場合は夜明けより少し早めだが)、目が醒める。
幽体である今となってはもはや休息の為の睡眠など無意味の筈だが、勝手にそうなるのだからどうしようもない。しかも何処で眠ろうと朝は必ず墓前で目醒めるという規則の様だ。ホグワーツに居たゴースト連中もそうだったのだろうか。
今朝の手紙には、彼女がスリザリンの寮監に就任したとの旨が記されていた。
自身に務まるか不安だ、と。…まさしくそう言う彼女の情け無い顔が目に浮かぶ。
何のことはない、いつもの様に淡々と綴られたくだらん内容なのだが、それも日々の積み重ねによる所為か何故だか彼女のことを、ホグワーツでのあの日々を、無性に懐かしく思い出させた。
(今のこの状態が、これから先も永遠に続くのだろうか____。)
誰にも会わずたった一人で、昼と夜とをただ繰り返して。
これまでずっと「目的」の為に生きてきた私にとって、"無"というものは途方も無い拷問の様に感じられる。
(ナナコの、声が聞きたい。
…顔を、見たい………触れたい……)
さわさわと揺れる草原に横たわりながらぼんやりと星空を眺める。
彼女の…私に対する想いとやらには前から気づいていたが、あの頃は、そういう類のものは自分には無縁だと頑なに気づかぬふりをしていたのだ。
あくまで「良き同僚」でありそれ以上踏み込ませることも、…或いは踏み込むことも、許さなかった。
私は、いつもそう、遅い。
ずっと気づかぬふりをしていたのは"彼女の"ではなく
自分の想いに、だったのだ。
こんなにも大事なことに死んで初めて気づくなんて、あまりに愚かでぐうの音も出ん。
リリーが知ったら……笑うだろうな。
「まったく素直じゃないんだから!ばかね、セブは。」
そうだ、そうやっていつも叱られた記憶がある。
……ん?
現実に引き戻されたように、うつらうつらとしていた目を思いきり開くと
薄桃色の空を背景にしたリリーが頭の上から私を覗き込んでいるではないか。
「見たくないものに蓋をするのは、貴方の悪い癖よ!昔からのね。それでいつも後悔してたじゃない」
……これは、夢なのか、現実か。
固まる私の顔面にリリーは容赦無くグシャっと紙を押し付けてきた。
「もう朝よ、起きてこれを読んで。それでもまだぐずぐず後悔していたいなら止めはしないけど」
手紙だ。リリーの所為で目茶苦茶ではないか。
「…もうこれ以上後悔したくないなら、自分の気持ちに嘘を吐かないこと!いい?セブ、やり方は覚えてるわね。"どこへ"、"どういう意図で"、"どうしても"、よ!」
一生懸命に膝の上で紙のシワを伸ばしているとリリーが聞き覚えのある単語を口にした。
「、しかしリリー…………!?」
顔を上げたそこに、もう彼女の姿は無かった。
貫いたのはナイフではなく君の言葉でした
その日の手紙には、「会いたい」の文字と涙の跡