短編

□神様探し
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湖を臨む小高い丘の上に、私の墓は建てられた。

墓なぞ要らんと思うも死人が口を出せるわけもなく、仕方なしにこうして墓石の上に腰を下ろしてみるがこれはこれでなかなか良い景色である。

一日の始まり、今日も抜けるような青空に幾筋もの朝陽が走る。湖面に反射して煌めくのがあまりに眩しく、目を細めた。



あれから世界は平和になった。

復興に時間を要する面も多々あるだろうが、人々は漸くあらゆるものから解き放たれたのだ。恐怖や苦痛といった永遠の暗闇から、この、夜明けの空の様に。

先の戦いではあまりに多くの犠牲がはらわれ、失意のどん底に打ちひしがれる者も多かっただろうが、それでも前に進まなければならないのだと誰もが重い腰を上げ始めるそんな時期だ。


ただ一人、例外を除いて____。


(……そろそろか。)

広い湖の水平線に目を凝らすと、黒い点がこちらへ向かってだんだんと大きくなりやがて梟のシルエットをかたどって私の元へ辿り着いた。今日もいつもと変わらず一通の手紙を銜えている。

私は既にこの世には存在しないがゆえ実態を持たないが、念の強い物には触れることができるらしいのを知った。

というわけで、毎日飽きもせずまるで日刊予言者新聞の如く朝一番にここへ届くこの手紙を読むのが日課の様なものになっている。




" セブルスへ

おはよう、今日も良い朝ね!
そちらでの生活には、もう慣れましたか?足りないものは無い?

どうか、元気で。

あなたの友人, ナナコ "




なんと変わり映えのない。
やれ"そちら"はどうか、だとか
元気にしているか、だとか。くだらん内容ばかり寄越しおって。

(_____だいたい、死んだ人間に元気も何も無かろうが。)


これ程度の文才で立派にホグワーツの教師というのだから不安だ。


読み終えたものを、そのまま湖に浸す。
底へ底へと沈んでいくそれが見えなくなるまで、ずっと見送りながら何度目かの溜息をついた。



(まったく、)



君がそんなでは、いつまでも逝けないだろう。



さよならの続きを願う

そっちこそ、元気でやっているのか?




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